根本說一切有部毘奈耶藥事卷第十五
根本説一切有部毘奈耶薬事 巻第十五
大唐三藏義淨奉 制譯
大唐三蔵義浄、勅を奉じて訳す
爾時佛告大王:「當於爾時,散彈長者於十二年飢儉亢旱供養千聖獨覺,于時帝釋助作功德,來降大雨者,大王!莫作異見,其散彈長者,即我身是。大王!我於過去,非唯以此布施而證菩提。勿作異見,由我正信,善根積集善根功德因緣故,更修無量福業,而證無上菩提。」
その時、仏は大王に告げられた。「あの時、散弾長者は十二年もの間、飢饉と干ばつの中で千人もの独覚聖者を供養した。その時、帝釈天が功徳を助け、大雨を降らせたのだ。大王よ、違う見方をしてはならない。その散弾長者こそ、まさに私のことである。大王よ、私は過去世において、ただこの布施だけで悟りを証したのではない。違う見方をしてはならない。私が正しい信仰によって、善根を積み重ね、善根の功徳の因縁によって、さらに無量の福業を修めたからこそ、無上の悟りを証することができたのである。」
攝頌曰:
偈頌に曰く、
馬王仙作證, 蛇命鳥王恩,
鸚鵡尾提訶, 龜蘇二商主。
馬王仙人が証となり、蛇の命は鳥王の恩による。 鸚鵡は尾提訶にあり、亀と蘇は二人の商人の主である。
佛言:「復次大王!我求無上菩提故,利益攝受一切有情。大王諦聽!於《中阿笈摩.僧祇得分藥叉經》中廣說。我於爾時,作一馬王,名婆羅訶,而為利益化諸有情。
仏が告げられました。「さらに、大王よ。私は無上の悟りを求めるがゆえに、すべての生きとし生けるものを利益し、慈しみをもって導いてきました。大王よ、よくお聞きなさい。これは『中阿含経』の中の『僧祇得分薬叉経』に詳しく説かれています。その昔、私は婆羅訶という名の馬の王となり、多くの生き物たちを救うために姿を変えて利益を与えたのです。」
「復次大王!我求無上菩提故,攝受利益有情之事。大王諦聽!乃至古昔,於婆羅痆斯,去城不遠有仙人住,心行慈愍悲念有情。去彼不遠有二農夫,耕墾種植遂共相爭,互為瞋鬪遂即相打。俱到仙所,並請為證,一人即往王邊,以事白王。王即告曰:『汝等相爭,何人證見?』白言:『大王!我等二人爭,是誰先過?』仙人答:『若依轉輪王法,我為作證;若行別法,我不為證。』王言:『如是。』仙人答曰:『此人瞋彼,彼人瞋此。彼既打此,此還打彼。』王言:『若如是者,二俱合罰。』仙人曰:『我先有言:「若依轉輪王法斷事,我以為證;汝若不依,我不為證。」』時王白言:『大仙!云何作轉輪王法而斷事耶?』仙人答曰:『大王!若轉輪王法,除無益事,令住有益。』其王告二人曰:『汝去!更勿如是。』」佛告大王:「爾時仙人以法作證者,勿作異見,即我身是。我於過去,雖作證見,依法為證,作真實證。由彼因緣,積集善根政信故,而證無上菩提。
「さらに、大王よ。私は無上菩提を求めるがゆえに、有情を摂受し利益することを行ってきました。大王、よくお聞きください。昔々、バラナシという都から遠くない場所に、一人の仙人が住んでいました。彼は心に慈悲を抱き、すべての生きとし生けるものを哀れんでいました。その近くに、二人の農夫がいました。彼らは畑を耕し種を蒔くうちに、互いに争い始め、怒り合い、ついには殴り合いになりました。二人は共に仙人のもとへ行き、自分たちの争いの証人になってもらおうと頼みました。その中の一人が王のもとへ行き、事の次第を報告しました。王は言いました。「お前たちが争っているが、誰が証人なのか。」農夫は答えました。「大王よ、我々二人の争いで、どちらが先に非があったのでしょうか。」仙人は答えました。「もし転輪王の法に従うならば、私が証人になろう。もし他の法に従うならば、私は証人にならない。」王は言いました。「それでよい。」仙人は答えました。「この者が彼に対して怒り、彼がこの者に対して怒った。彼が打てば、この者も打ち返した。」王は言いました。「もしそうなら、両者とも罰すべきである。」仙人は言いました。「私は先に申しました。『もし転輪王の法で裁くならば、私は証人になろう。お前がそれに従わないならば、私は証人にならない。』」その時、王は言いました。「大仙よ、どのようにして転輪王の法で裁くのですか。」仙人は答えました。「大王よ、転輪王の法とは、益のないことを除き、有益なことに留まらせることです。」そこで王は二人に告げました。「お前たちは去れ。今後このようなことをしてはならない。」仏は大王に告げました。「その時、仙人が法をもって証人となり、法に従って証し、真実の証としたのです。これを異なる見解と思ってはなりません。すなわち、それが私の前世の姿です。私は過去世において、証人となりながらも、法に従い証し、真実を証しました。その因縁によって、善根と正しい信仰を積み重ねた結果、無上菩提を証得したのです。」
「復次大王!又為求無上菩提故,攝受有情。菩薩爾時在不定聚,捨自身命,饒益一切有情。大王!乃往古昔,於一方處大叢林中,有師子王於中居止。復有五百商人經過險路,由語聲故,有大蟒蛇驚動睡覺,五百商人悉被蟒蛇圍遶。爾時商人甚大驚怕,發聲號叫求諸天神。其師子王聞此叫聲來至,乃見蟒蛇圍彼商人。去此不遠有少年象,爾時師子即往象邊告言:『此諸商人今被蟒蛇圍遶欲食,汝能捨命救彼商人耶?』其象答曰:『欲遣如何?』師子告曰:『我須上汝頭上,後脚捉頭,以我雙爪打彼蛇腦。後之兩足入汝頭中,汝當必死;我打蛇腦,蛇當定死;其蛇口吐毒氣,我亦應死。』象曰:『且為利益拔濟多人,寧顧身命?』時師子王昇象頭上,擲身打彼蟒蛇。師子按足,象便命過;打彼蟒蛇,蛇亦即死;由蛇毒氣,師子身亡。三箇一時並皆捨報,諸商人等遂全身命。商人欲發,空中諸天告商人曰:『此師子王是賢劫菩薩,今為汝等捨自身命拔救諸人。汝等宜應供養菩薩,然後進發。』時諸商人即以種種供具供養師子王身,遶已而去。」佛告大王:「爾時師子王者,勿作異觀,即我身是。我於爾時在傍生趣,能救五百商人,捨自身命,害彼毒蛇。由我慈心攝受有情,功德因緣,積集善根,正信力故,而證無上菩提。
「また、大王よ。さらに、無上なる悟りを求めるがゆえに、有情を慈しみ受け入れるのです。菩薩はその時、まだ悟りの定まらない境地におりましたが、自らの命を捨てて、すべての生きとし生けるものを利益しました。
大王よ。昔々のことです。ある場所の大きな森の中に、獅子の王が住んでいました。そこへ五百人の商人が危険な道を通りかかりました。その話し声によって、大きな蛇が驚いて目を覚ましました。五百人の商人はすべて大蛇に取り囲まれてしまいました。
その時、商人たちは非常に恐れおののき、声をあげて叫び、天の神々に助けを求めました。獅子の王はこの叫び声を聞いて駆けつけ、大蛇が商人たちを取り巻いているのを見ました。
そこから遠くない所に、若い象がいました。獅子は象のもとへ行き、こう言いました。『この商人たちは今、大蛇に囲まれ、食われようとしている。あなたは命を捨てて、この商人たちを救えるだろうか?』
象は答えました。『どのようにすればよいのですか?』
獅子は言いました。『私はあなたの頭の上に登り、後ろ足で頭を捉え、この二つの爪で蛇の頭を打ちます。後の二本の足はあなたの頭の中に入ります。あなたは必ず死ぬでしょう。私が蛇の頭を打てば、蛇も必ず死にます。その蛇が口から毒気を吐けば、私も死ぬでしょう。』
象は言いました。『それで多くの人々を利益し救えるのなら、どうして自分の命を惜しむことがありましょうか。』
その時、獅子の王は象の頭の上に登り、身を投げ出して大蛇を打ちました。獅子が足で押さえると、象は命を終えました。大蛇を打つと、蛇もすぐに死にました。蛇の毒気によって、獅子も命を落としました。三つは同時に命を終えました。商人たちはみな命を全うすることができました。
商人たちが出発しようとした時、空の天人が商人たちに告げました。『この獅子の王は賢劫の菩薩である。今、あなたたちのために自らの命を捨てて、多くの人々を救ったのだ。あなたたちは菩薩に供養を捧げるべきである。その後で出発しなさい。』
その時、商人たちはさまざまな供物をもって獅子の王の遺体を供養し、その周りを巡ってから去っていきました。」
仏は大王に告げました。「その時の獅子の王を、別のものと思ってはなりません。すなわち、この私のことです。私はその時、畜生の世界にいましたが、五百人の商人を救うために自らの命を捨て、その毒蛇を退治しました。私が慈しみの心で有情を受け入れたその功徳と因縁によって、善根を積み、正しい信仰の力によって、無上の悟りを証得したのです。」
「復次大王!乃往古昔,於一方處有好叢林。然有菩薩在不定聚傍生之中作共命鳥,一身兩頭:一名達摩、二名阿達摩。是時達摩食好甘菓,後時阿達摩便食毒果,兩俱悶亂,共相平論。一作邪願:『願我所生之處,常共汝為惡友,能為損害。』二者發願:『願我生生之處,常行慈心,利益汝身。』」佛告大王:「於汝意云何?爾時名達摩者,即我身是。其名阿達摩者,即提婆達多是。我為慈悲心故,由彼因緣,積集善根故,而證無上菩提。
「さらに大王よ、昔々のこと、ある場所に立派な林がありました。その林の中に、まだ悟りを開いていない菩薩が、動物として生まれていました。それは一つの体に二つの頭を持つ、共命鳥という鳥でした。一つの頭の名をダルマ、もう一つの頭の名をアダルマといいました。
さて、ダルマという頭は甘くて美味しい果物を食べました。すると後になって、アダルマという頭が毒のある果物を食べてしまい、二つの頭は共に苦しみました。そこで二つの頭は互いに言い争いました。
一方の頭、アダルマは邪な願いを立てました。『どうか私が生まれ変わる所では、いつもあなたと悪い友となり、あなたに害を与えることができますように。』
もう一方の頭、ダルマは善い願いを立てました。『どうか私が生まれ変わる所では、いつも慈しみの心を持って、あなたの身を利益することができますように。』」
ここで仏は大王に問われました。「あなたはこの話をどう思いますか。あの時のダルマという頭こそ、わたし自身でありました。アダルマという頭こそ、提婆達多でありました。わたしは慈しみの心を持ち続けたゆえに、その因縁によって善い根を積み重ね、この上ない悟りを成就することができたのです。」
「復次大王!乃往古昔,於一方所有好流池。菩薩爾時於不定聚作其鳥身,於五百鳥中而為鳥王。其中有一老鳥,不能遠求食飲,常食小鳥及諸鳥卵,徐劣而行,既食飽已一足而立。時諸小鳥,常被食噉,心大愁苦,共詣王邊,作鳥語聲,白言:『鳥王!具說如前,愁悲苦惱。』鳥王即為尋訪斯事,是誰食噉諸鳥子等?菩薩雖在惡趣心常無異,如是訪察,乃見老鳥詐劣徐行,在池岸邊翹足而立。于時鳥王菩薩即便覺知是損害之者,而說頌曰:
「また、大王よ。昔々、ある場所に美しい池がありました。その時、菩薩は迷いの境地にありながらも、鳥の姿をとって、五百羽の鳥たちの王となっておりました。その中に一羽の老いた鳥がおりました。この老鳥は遠くへ餌を探しに行くこともできず、いつも小鳥や鳥の卵を食べては、ゆっくりと歩き、満腹になると片足で立っているのでした。そのため、小鳥たちは次々と食べられてしまい、大きな悲しみと苦しみを抱えて、王のもとへ集まり、鳥の言葉でこう訴えました。『鳥王よ、私たちの辛さや悲しみは、先ほど申し上げた通りです。』鳥王はすぐに、いったい誰が小鳥たちを食い殺しているのかを調べ始めました。菩薩は、たとえ苦しい境遇にいても、心は常に清らかなままでした。こうして探し求めた結果、老いた鳥が弱々しいふりをしてゆっくり歩き、池のほとりで片足を上げて立っているのを見つけました。その時、鳥王である菩薩は、この老鳥こそが害をなす者だと気づき、こう偈(うた)を詠みました。
「『食噉諸鳥卵, 并餘小鳥等;
翹足一脚立, 猶如持戒者。
徐徐而縮脚, 微劣詐言談;
曲項嬌為斯, 必是多姦詐。』
「鳥の卵を食べ、ほかの小さな鳥たちも食い尽くす。片足を上げて立つさまは、まるで戒律を守る者のようだ。ゆっくりと脚を縮め、弱々しく装って言葉を交わす。首を曲げて愛らしく振る舞うが、これはきっと狡猾な詐欺師に違いない。」
「爾時老鳥便作是念:『今者鳥王既察知我,我今歸依。』鳥王告曰:『汝可設計,勿令諸鳥知汝怨事。』老鳥聞已速即逃去。于時眾鳥安隱無憂。」佛告大王:「爾時鳥王者,莫作異見,即我身是。我為鳥王之時,由能慈攝一切有情。由彼因緣,積集善根正見力故,證得無上正等菩提。
その時、年老いた鳥はこう思った。「今、鳥の王は私のことを見抜かれた。私は今ここで帰依しよう。」鳥の王は告げた。「お前は計略を巡らせよ。他の鳥たちに、お前の恨み事を知られてはならない。」年老いた鳥はこれを聞くと、すぐに逃げ去った。その時、すべての鳥たちは安らかで憂いがなかった。仏は大王に告げた。「その時の鳥の王とは、他でもない、まさに私のことである。私は鳥の王であった時、慈しみの心で全ての生きとし生けるものを守り導いていた。その因縁によって、善い根を積み重ね、正しい見解の力を得たことで、無上なる正しい悟りを成就したのである。」
「復次大王!乃往古昔,於一方所叢林之中,菩薩爾時在不定聚作鸚鵡鳥,常解人語。然於彼時,婆羅痆斯有王名曰梵德,正紹王位,以法化世。而有一鳥欲害鸚鵡,鸚鵡飛投大王手中,告言:『大王!莫非法化世。』時王見鳥來投手中,心生憐念,即於鸚鵡邊而受五戒,以法化世,勅群臣曰:『今於一切鳥獸,以無畏施。』」佛告大王:「莫作異見。爾時鸚鵡,解為人語者,見善根故,而證無上菩提。
「また、大王よ。遠い昔、ある林の中に、菩薩はまだ悟りを求める身として、鸚鵡(おうむ)の鳥として生まれました。その鸚鵡は人の言葉を理解することができました。当時、バラナシには梵徳(ぼんとく)という名の王がおり、正しく王位を継いで、法によって世を治めていました。ところが、一羽の鳥が鸚鵡を襲おうとしました。鸚鵡は飛んで大王の手の中に身を投げ、こう言いました。『大王よ、どうか法にかなった政治を行ってください。』王は鳥が自分の手に飛び込んで来たのを見て、哀れみの心を起こし、その鸚鵡のそばで五戒(ごかい)を受け、法によって世を治め、臣下たちにこう命じました。『今よりすべての鳥や獣に対して、恐れのない安心を与えなさい。』」
仏は大王に告げられました。「異なる考えを持ってはなりません。その時、人の言葉を理解していた鸚鵡こそが、善い根を育てたゆえに、無上の悟りを成就された私、すなわち仏なのです。」
「復次大王!乃往古昔,於婆羅痆斯有梵德王,正紹王位。去此不遠,有尾提訶國起逆,其梵德王常欲伐彼不臣。其梵德王兵眾強盛,其尾提訶國雖兵馬驅勝,而常心行慈悲於梵德王。其梵德王貪愛其國,興舉四兵往擊尾提訶國。其王聞梵德王四兵欲來,即令掃灑城邑無諸瓦石,懸繒幡花,辨諸飲食。又勅諸臣等,令城內人民出城預前二十五里,香花迎接,復作百種言詞,讚美王德。其梵德王聞此事已,瞋心乃息,便作是念:『既逆善言,不相違逆,今可迴軍。』時尾提訶國群臣等讚梵德王曰:『願王過國,所有軍眾,廣陳設會。』尾提訶王說伽他曰:
「また、大王よ。昔々のこと、バラナシに梵徳王という王がおり、正しく王位を継いでいました。この国から遠くないところに、ヴィデーハ国という国があり、逆心を抱いていました。梵徳王は常に、その従わぬ国を討とうと考えていました。
梵徳王の軍勢は強盛でしたが、ヴィデーハ国は軍馬で勝っていたものの、常に心から梵徳王に対して慈悲を施していました。
梵徳王はその国を貪り愛し、四兵(歩兵・騎兵・車兵・象兵)を挙げてヴィデーハ国を攻めようとしました。ヴィデーハ王は、梵徳王が四兵を率いて来ようとしているのを聞くと、すぐに街や城を清めさせ、瓦石ひとつないようにし、絹の幡や花を掲げ、さまざまな飲食を備えさせました。また、臣たちに命じて、城内の民を城外に出し、二十五里先まで出迎えさせ、香や花をもって迎えさせ、さらに百種の言葉をもって王の徳を讃えさせました。
梵徳王はこのことを聞いて、怒りの心がおさまり、こう思いました。『すでに善い言葉をもって迎えられ、逆らうこともない。今こそ軍を引き返すべきだ。』
そのとき、ヴィデーハ国の群臣たちは梵徳王を讃えて言いました。『どうか王はこの国をお通りください。すべての軍勢のために、広く供養の宴を設けましょう。』
ヴィデーハ王はガーター(偈)を説いて言いました。
「『大王受懺摩, 我當親奉敬;
諸事隨王作, 幸賜為親友。』
「大王よ、どうか私の懺悔をお受けください。わたしは心から敬意を捧げましょう。何事も王のお望みのままにいたします。どうか私を友としてお認めください。」
「爾時梵德王復以伽他答曰:
その時、梵徳王は再び詩の形で答えて言いました。
「『由忍得解脫, 瞋心寂無起;
為一切能故, 能勝一切人。』
「忍耐によって解脱を得、怒りの心は静まり起こらない。すべてのことが可能となるために、あらゆる人に勝つことができる。」
「爾時二王共為和合,其梵德王即歸本國,尾提訶國一切人民皆悉無畏。」佛告大王:「爾時尾提國王者,莫作異見,即我身是。我為調伏其心,由彼積集正信善根故,而證無上菩提。
その時、二人の王は互いに和解し合いました。梵徳王は自国へ帰り、尾提訶国の全ての人々は安心して恐れることもなくなりました。
そこで仏は大王に告げられました。「その時の尾提訶国の王とは、他でもない、今の私のことである。私は心を調えるために、その者が正しい信と善い根を積み重ねたことによって、ついに無上の悟りを証得したのである。」
「復次大王!乃往古昔,菩薩爾時在不定聚,於大海中作一龜王。復於後時,有五百商人乘船入海,乃被海獸打破船舶。其龜取五百商人置於背上,渡出海中。爾時商人皆悉安隱,全其身命。」佛告大王:「然於彼時大龜王者,莫作異見,即我身是,為由慈攝有情,由彼因緣,正信積集善根故,而證無上菩提。
「また、大王よ。昔々のこと、菩薩はその時、まだ悟りを求める修行の身であり、大海の中で一匹の亀の王となっていました。その後、五百人の商人たちが船に乗って海へ出ましたが、海の怪物に船を壊されてしまいました。その亀の王は五百人の商人たちを背中に乗せて、海を渡り救い出しました。その時、商人たちは皆、無事で、命を全うすることができました。」仏は大王に告げられました。「その時の亀の王というのは、他ならぬ私のことです。慈悲の心で生きとし生けるものを救ったことにより、その因縁から、正しい信仰を積み、善い行いを重ねた結果、この上ない悟りを成就することができたのです。」
「復次大王!乃往古昔,時毘提訶國有五百群臣。其中有二兄弟,最為大臣:兄名蘇斯那、弟名斯那。其名斯那者,心常好覓人過,無利益心。其蘇斯那者,於一切時常行利益。為由蘇斯那常行利益故,其斯那既無利益,惱亂人民,城中眾俱來白王,說彼所作無利益事。其王即令擯出境外,便往婆羅痆斯城,事梵德王。後於異時,其蘇斯那聞弟被擯出境,在婆羅痆斯梵德王所以為臣佐,即白毘提訶王言:『今欲往彼婆羅痆斯看弟,作其和順之事。』城中人眾皆生怪愕:『其弟常於兄處作無益事。其弟王擯出國境,此兄尚於弟處能行饒益,共為和可。』」佛告大王:「莫作異見,於彼時中,名蘇斯那大臣者,即我身是,常為利益有情。由彼因緣,正信積集善根故,而證無上菩提。
「また、大王よ。はるか昔、毘提訶国に五百人の家来たちがおりました。その中に二人の兄弟がいて、最も大きな大臣でありました。兄は蘇斯那(ススナ)といい、弟は斯那(スナ)といいました。その弟の斯那は、常に人の欠点を探すことを好み、利益を施す心がありませんでした。兄の蘇斯那は、どんな時も常に人々の利益となる行いをしておりました。
蘇斯那が常に利益の行いをしていたため、その分、斯那は利益をもたらさず、民を苦しめました。そこで都の人々が皆、王のもとに来て、斯那が行った無益な行いを申し立てました。王はすぐに斯那を国境の外に追放しました。斯那はバラナシの都へ行き、梵徳王(ぼんとくおう)に仕えました。
その後、ある時、蘇斯那は弟が国を追われ、バラナシで梵徳王の大臣となっていると聞きました。そこで毘提訶王に申し上げました。「今、バラナシへ行って弟を訪ね、兄として仲直りの行いをしたいと思います。」
都の人々は皆、不思議に思いました。「弟は常に兄に対して無益な行いをしてきたのに、その弟が王によって国を追われたというのに、この兄はなお弟のために利益の行いをして、仲直りしようとしている。」
仏は大王に告げられました。「他の考えを起こしてはなりません。あの時の蘇斯那という大臣こそ、まさに私の前世の姿であり、常に生きとし生けるものの利益のために行動しておりました。その因縁によって、正しい信仰を積み、善い根を育てた故に、この上ない悟りを成就したのです。」
「復次大王!乃往古昔於一方所,有一大城。其城中有二商人居止,將五百乘車載其寶貨,行至曠野險路,具如《中阿笈摩》說。其一商人,已被藥叉噉食。第二商主,平安得出曠野之中。」佛告大王:「其第二商主,平安得出曠野之嶮者,莫作異觀,即我身是。為慈攝有情,由彼因緣,正信積集善根故,而證無上菩提。
「また、大王よ。遠い昔のこと、ある場所に大きな都があった。その都には商人が二人住んでいて、それぞれ五百台の車に宝物を積んで、荒野の険しい道を通りかかった。これは『中阿含経』に説かれている通りである。その一人の商人は、既に薬叉に食い殺されてしまった。もう一人の商主は、無事に荒野から出ることができた。」仏は大王に告げられた。「その無事に荒野の難所を抜け出た二人目の商主を、他でもない者と思ってはならない。まさに私自身のことである。衆生を慈しみ守るために、その因縁によって、正しい信を起こして善根を積み重ねた結果、無上の悟りを証得したのである。」
「復次大王!乃往古昔,於一方所叢林之中,多饒河㵎,花菓滋茂。爾時菩薩在不定聚,作六牙象王,在其林內。其象王妻名曰拔陀,於母象中為最尊貴。是時象王出群,在於閑僻之處,有別雌象,端正悅意,詣象王處,共為私竊。既為夫婦,甚加憐愛,行住相隨,意不相離,心相繫著。時拔陀母象,便生嫉妬,即自思念:『作何方計,便我當得殺六牙象王并彼母象?』正住思惟,心大嫉妬,無計可得,遂便發願:『願我生生之處,能害二人。』作是願已,於山頂上投身而下,便即命終,生毘提國大夫人腹,而處其胎。十月滿已誕生一女,眾相具足,漸漸長大,嫁與隣國梵德大王為第一夫人。由彼宿業,於六牙象等生大瞋恨,然而夫人有宿命智,即白梵德王言:『於彼方所,有六牙大象,我今要此象牙,願王令取。』于時王勅諸城所有獵師皆悉喚集,令取六牙大象。獵師集已,告曰:『汝等往取象牙將來。』時諸獵師,王既勅已,依命即去。其獵師大將告獵人曰:『汝等並散,各歸本業,我獨自往取其象牙。』是時大將即取祭祀之物,并著衣甲毒箭等物,造詣方所。見彼象王并及母象,二俱別住於閑靜處,各離象群而住,見已遠至遙望。爾時獵師身被忍服,覆其弓箭,所有衣甲藏在草中,欲為殺害。爾時母象遙見獵師,即告夫曰:『我等速向餘處,今有人來欲殺我等。』象王曰:『其人作何形貌?』答曰:『身被忍衣,外現慈相。』『若如是者,當須無畏。在袈裟中,無不善事。此之幢相覆蓋之人,心住慈悲,當須無怖,勿生疑惑。如月無熱,斯人亦如是。』于時母象及以象王,並無疑惑,隨意遊行。爾時獵師既得其便,即放毒箭,射彼象王,中於要處。母象告曰:『如何乃言著袈裟人無有害心?』爾時象王以頌答曰:
「また、大王よ。昔々、ある場所の林の中に、たくさんの川や谷があり、花や果実が豊かに茂っていました。その時、菩薩はまだ悟りを得ない身でありながら、六牙の象の王としてその林にいました。その象王の妻の名はバッダーといい、雌象たちの中で最も尊く貴い存在でした。
ある時、象王は群れを離れて、静かな場所にいました。そこへ別の美しく愛らしい雌象が現れ、象王のもとへやって来て、密かに夫婦の関係となりました。象王はこの雌象を深く愛し、行くにも留まるにも共にあり、心は離れることなく強く結ばれていました。すると、妻のバッダーは嫉妬の心を起こし、こう思いました。『どうしたら、六牙の象王とあの雌象を殺せるだろうか。』考え込むほどに嫉妬は深まり、方法も見つからず、ついにこう誓いました。『どうか私が生まれ変わる先々で、この二人を害することができますように。』そう誓って、山の頂上から身を投げ、そのまま命を終えました。そして、ビーダ国(毘提国)の大きな家の夫人の胎内に宿り、十月の満ちるのを経て、一人の娘が生まれました。美しい相をすべて備え、成長して隣国の梵徳大王の第一夫人となりました。
しかし、前世の業によって、この夫人は六牙の象たちに対して激しい怒りを抱いていました。そして夫人には前世を覚えている智慧があったため、梵徳大王にこう申し上げました。『あの場所に六牙の大象がいます。私はどうしてもその象牙が欲しいのです。どうか王様に、その象牙を取らせてください。』その時、王は国中の狩人たちをすべて集め、六牙の大象を取るよう命じました。狩人たちは集められ、王の命令を聞くと、その通りに出かけていきました。狩人の長は他の狩人たちに言いました。『お前たちは皆、散ってそれぞれの仕事に戻れ。私が一人で象牙を取りに行く。』
そこで長は祭祀のための品々を用意し、衣や甲冑、毒矢などを身につけて、その場所へ向かいました。そこでは、象王と雌象が群れを離れ、静かな場所に別々に住んでいました。長は遠くから彼らを見つけました。その時、狩人は忍者の衣を身につけて弓矢を覆い、甲冑は草の中に隠し、殺そうと狙っていました。すると雌象が遠くに現れた狩人を見て、夫である象王に言いました。『私たちは急いで別の場所へ向かいましょう。今、人が来て私たちを殺そうとしています。』象王は尋ねました。『その人はどんな姿をしているのか。』雌象は答えました。『忍びの着物をまとい、外には慈悲深い顔をしています。』それを聞いて象王は言いました。『もしそうならば、恐れることはない。袈裟の衣に不善のことはない。このような旗印のような衣を身につける人は、心に慈悲を宿している。恐れたり疑ったりしてはならない。月は熱を持たないように、この人もまた同じだ。』この時、雌象も象王も何の疑いも持たず、のびのびと歩き続けました。
すると狩人は、ちょうど良い機会を得て、毒矢を放ち、象王の急所を射抜きました。雌象は言いました。『どうして袈裟を着た人には害する心がないと言うのですか。』その時、象王は偈頌(詩句)でこう答えました。」
「『心非生過患, 亦非衣所作;
此過由煩惱, 由心離慈愍。
如金裹銅葉, 入火銅性現;
患人雖不了, 智者善能知。
弓箭人俱毒, 咸由彼為惡;
袈裟本寂靜, 皆悉由心作。』
「心自体には過ちの生ずる原因はなく、衣(袈裟)が過ちを作るのでもない。 この過ちは煩悩から生じ、心が慈しみを離れることによる。
あたかも金で銅の葉を包んでも、火に入れれば銅の性質が現れるように、 迷える人はこれを悟らなくとも、智者はよく知っている。
弓も矢も人も毒を持つ、すべてはその人の悪行による。 袈裟は本来静かであり、すべては心によって作られるのだ。」
「爾時母象心生瞋恚,告其夫曰:
そのとき、母象は心に怒りを生じ、夫に告げて言った。
「『我不違君語, 如君今所說;
我欲碎斯人, 節節令其斷。』
「私はあなたの言葉に背きません、今あなたがおっしゃった通りにします。あの者を砕き、節々を断ち切りましょう。」
「爾時象王聞此語已,生如是念:『作何醫療此煩惱事?若是菩薩婦起怨害心者,此不應也。』說伽他曰:
その時、象の王はこの言葉を聞いて、このように思った。「どのようにしてこの悩みの事を癒すべきか。もし菩薩の妻が恨みや害心を起こしたならば、それは決してあってはならないことだ。」そして、この詩を唱えた。
「『如被多鬼所著心, 見醫即作非供養;
醫人見彼亦非恨, 應生如是歡喜心。』
「心が多くの鬼に取り憑かれているとき、医者を見ても供養しようとは思わない。医者はそれを見ても恨まず、そのような喜びの心を起こすべきである。」
「爾時母象聞其菩薩象王所說,默然而住。時諸群象詣象王處,便作是念:『勿此母象損害獵師。』若菩薩在傍生趣中,常行菩薩行。是時象王往獵師邊,以人言音告獵師曰:『汝莫怪畏。』恐損獵師,象王以鼻遶取獵師,抱在胸前,又令母象別向餘處,然後告曰:『丈夫!母象已去。汝若須我身上物者,任意取之。』是時獵師心極怪愕:『此乃是人,我非人也。我是人中象,汝是象中人。汝在傍生,有是情智?我居人類,反無斯慧。』悲啼泣淚。菩薩問曰:『為何啼泣?』獵師答曰:『汝已損我。』時象王聞已,作是思惟:『我現相救,不曾有損。』復更思惟:『不是雌象而來損耶?』又問獵師曰:『誰損汝耶?』獵師答曰:『象王!汝身有無量功德,無辜加害,即是損我。汝身被箭所傷,可有治療。我心被射,愚癡無智,難可療治。』而說頌曰:
その時、母象は菩薩の象王が説くのを聞いて、静かにその場に留まっていた。すると群れの象たちが象王のもとへ集まり、こう考えた。「この母象が猟師を傷つけることはないだろうか。」しかし菩薩は畜生の生の中にあっても、常に菩薩の行を実践していた。その時、象王は猟師のもとへ行き、人間の言葉で猟師に告げた。「あなたは驚き恐れることはありません。」猟師を傷つけることを案じ、象王は鼻で猟師をそっと巻き取り、胸の前に抱え、母象には別の場所へ行くよう促した。その後、こう告げた。「男よ、母象はもう去りました。もし私の体の一部が必要ならば、どうぞお取りください。」その時、猟師は心の底から驚き怪しんだ。「これはまさに人ではないか。私は人にあらず、私は人の中の象だ。あなたは象の中の人だ。あなたは畜生の身でありながら、このような心と智慧を持つのか。私は人間の中にありながら、かえってこのような智慧を持たないとは。」彼は悲しみのあまり涙を流して泣いた。菩薩は尋ねた。「なぜ泣くのですか。」猟師は答えた。「あなたは私を傷つけたのです。」象王はこれを聞いて、こう考えた。「私は姿を現して助けたのであって、傷つけたことはないはずだ。」さらに考えた。「まさか雌象が来て彼を傷つけたのではあるまいな。」そして猟師に尋ねた。「誰があなたを傷つけたのですか。」猟師は答えた。「象王よ、あなたの体には無量の功徳があります。それなのに罪なくして私を傷つけた。それこそが私を傷つけたのです。あなたの体は矢に傷つけられましたが、それは治るでしょう。しかし私の心は愚かさの矢に射抜かれ、智慧がなく、治すことは難しいのです。」そして偈を唱えた。
「『我今觀察象王行, 功德廣大猶如海;
起害之人猶發慈, 此之菩薩心難得。
假說我今身是人, 了無如是真智覺;
但有如斯瞋害毒, 身空無有少功德。
莊嚴形貌似人身, 不如生在傍生趣;
汝在傍生有人智, 象王為最象中尊。
不言形貌即成人, 不以傍生非是人;
若有人慈功德者, 彼乃當知即是人。』
「私は今、象王の行いを観察する。その功徳は広大で、海のように深い。 害を加えようとする者に対してさえ、慈しみの心を起こす。このような菩薩の心は、容易に得られるものではない。 たとえ私が今、人として生まれていても、このような真の智慧と悟りはない。 ただこのような怒りと害心の毒があるばかりで、身にはわずかな功徳もない。 外見だけを飾って人の形をしていても、むしろ畜生として生まれるほうがまさっている。 あなたは畜生の身でありながら、人の智慧を持っている。象王は象の中でも最も尊い存在である。 形が人のようであるからといって、すぐに人となるのではない。畜生であるからといって、人ではないとも言えない。 もし人の慈しみの功徳を持つ者がいれば、その者こそが真に人であると知るべきである。」
「爾時象王告曰:『不勞廣說多言語,不用多述巧言辭。汝今云何箭射我?速說斯事令我知。』獵師答曰:『我奉王教,須汝身牙,緣此射之。』象王告曰:『仁所須者,幸時早取。菩薩為懷,無不捨者,任汝拔牙,將所利益。』說伽陀曰:
その時、象の王は言いました。「多くを語り、巧みな言葉を並べる必要はない。汝はなぜ我に矢を射たのか、すぐにその理由を話し、我に知らせよ。」狩人は答えて言いました。「私は王の命令に従い、あなたの牙が必要であるため、このように射ったのです。」象の王は言いました。「あなたが必要とするものならば、今すぐに取りなさい。菩薩の心は、何ものも惜しみなく与えるものです。どうぞ牙を抜き、利益を得るところに用いなさい。」そして偈(ガータ)を説きました。
「『利益一切有情等, 速離漂流生死海;
當證無上菩提智, 唯願早入涅槃城。』
「すべての生きとし生けるものを利益し、 速やかに生死の海を漂うことから離れ、 無上の悟りの智慧を証得し、 どうか早く涅槃の城に入らんことを。」
「爾時獵師心生羞恥,告象王曰:『我須汝牙。』象王告曰:『任意拔將。』答曰:『我不能拔。若令我拔,願住慈悲,我方能拔;若其不住慈悲之心,正拔之時,手必墮落。』象王告曰:『若汝不能拔者,我自拔與。』象王曰:『為我牙根入肉深遠。』當拔之時白血流注。拔已欲與獵師,象王身色鮮白如優曇鉢花,血流遍身,如山雪覆,亦如襇文。
その時、猟師は心に恥じる思いを抱き、象王に言った。「私はあなたの牙が欲しいのです。」 象王は言った。「好きなように抜き取りなさい。」 猟師は答えた。「私には抜けません。もし私に抜かせようとなさるなら、どうか慈しみの心をお持ちください。そうすれば私は抜くことができます。もし慈しみの心をお持ちでなければ、まさに抜こうとする時、私の手は必ず落ちてしまうでしょう。」 象王は言った。「もしお前が抜けないのなら、私が自分で抜いて与えよう。」 象王は言った。「私の牙の根は肉の中に深く入っているのだ。」 抜く時、白い血が流れ出た。抜き終えて猟師に与えようとした時、象王の体の色は鮮やかに白く、烏曇鉢羅華(うどんばらげ)のようであり、血が全身に流れて、山に雪が降り積もったようであり、また襞(ひだ)のある織物の文様のようでもあった。
「爾時象王自心覩見身相如是,恐有退轉,欲堅其心,不令嬈亂。由彼菩薩多習性故,而行其施,豈有退邪?至於死路,唯歸佛陀。於彼時中,有種種異相,為空中諸天心得滿足,便生喜悅,現希有事。然由象王作是苦行,空中有天而說頌曰:
その時、象の王は自らの心で、このような身の姿を見て、退転することを恐れた。その心を堅固にしようと欲し、悩まされることなく保とうとした。かの菩薩は多くの修行を積んできた性質を持つがゆえに、布施を行い続けた。どうして退くことがあろうか。死の道に至るまで、ただ仏陀にのみ帰依するのであった。その時、様々な異なる相が現れた。虚空の天人たちは心を満たされ、喜びを生じて、珍しいことを示した。しかし、象の王がこのような苦行を行う中、虚空に天人があり、偈を唱えて言った:
「『我等諸天見, 象王行苦行;
當正拔牙時, 受於無量苦;
內心猶喜悅, 必不退菩提。』
「私たち天人は見ました。象の王が苦行を行うのを。牙を抜かれる時、無量の苦しみを受けながらも、心はなお喜びに満ち、決して悟りへの道を退くことはないでしょう。」
「別有一天而問彼天曰:
ある日、別の天人がその天人に尋ねて言った。
「『如此拔牙身受苦, 云何能發趣菩提?
猶如地獄受苦人, 必不能發慈悲意。』
「このように歯を抜かれて体が苦しむのに、どうして悟りを求める心を起こせるだろうか。あたかも地獄で苦しみを受ける者が、慈しみの心を起こせないのと同じである。」
「爾時象王拔牙已,默然而住。獵師念曰:『云何拔牙,執持而住?欲生悔耶?不與我耶?』于時象王觀知彼意,即持優曇鉢花白色六牙,引其前足,而以六牙欲捨與之,告曰:『待住少時!待住少時!我今極痛。』象王又作此念:『受者現前,何須久住?如何不施?本為此牙欲殺於我,今既無牙,何慮餘事。』告獵師曰:『汝應善聽。』說伽他曰:
その時、象の王は牙を抜き終えて、静かにその場に留まっていた。狩人は心の中で思った。「なぜ牙を抜きながら、それを手に持って立っているのか。後悔しているのか。それとも私に与えたくないのか。」その時、象の王は彼の心を見抜いて、白い六本の牙を持つ優曇鉢の花を手に取り、前足を差し出し、その六本の牙を与えようとして、こう告げた。「しばらく待ってくれ!しばらく待ってくれ!今、私はとても痛いのだ。」象の王はまたこう思った。「受け取る者が目の前にいるのだから、なぜ長く留まる必要があろうか。どうして施さないことがあろうか。そもそもこの牙のために私を殺そうとしたのだ。今や牙はもうないのだから、他のことを心配する必要はない。」そして狩人に告げた。「汝、よく聞きなさい。」そして伽他(詩句)を唱えた。
「『賢首汝應棄惡事, 所持利劍弓箭物;
被此袈裟仁者衣, 我今見此心歡悅。
或有施淨受亦淨, 或有施淨受不淨;
我今觀汝淨應供, 施者受者二俱淨。』
「賢首よ、汝は悪しき行いを捨てよ。持てる鋭き剣や弓矢の類を。 この袈裟、仁者の衣を身にまとうとは、今この姿を見て心が喜ばしい。 ある者は施しも清らかで受ける者も清らか、あるいは施しは清らかでも受ける者が清らかならぬこともある。 今、汝を見れば清らかにして供養に値する。施す者も受ける者も、ともに清らかである。』
「爾時象王見彼被離欲衣,心自喜悅,即與六牙,告曰:
その時、象の王は彼が欲を離れた衣を身につけているのを見て、心から喜び、すぐに六本の牙を与えて、こう告げました。
「『若實毒箭射我身, 不生少許瞋恨意;
此實願速證菩提, 當救輪迴得解脫。』」
「もし本当に毒矢が我が身を射ようとも、少しの怒りの心も起こさない。この誠の願いによって、速やかに悟りを成就し、迷いの輪廻から一切の衆生を救い、解脱へ導きたい。」」
佛告大王:「於意云何?彼時六牙大象王者,莫作異見,即我身是。我以慈悲苦行布施故,而由未證菩提。由彼因緣,正見積集善根,而證無上菩提。
仏は王に告げられた。「あなたはどう思うか。あの時の六牙の大象の王者は、他ならぬ私自身であった。私は慈悲の心で苦行や布施を行ったが、まだ悟りを開いてはいなかった。その因縁によって正しい見解を積み、善根を集めた結果、この上ない悟りを成就したのである。」
「復次大王!我曾作兔,捨其身肉,布施與彼仙人之時,廣說應知。
また、大王よ。私はかつて兎でありました。その身の肉を捨てて、仙人に布施をした時のことも、広く説いて知らせるべきでしょう。
「復次大王!我於往昔,父母二俱無目,常以肩背負擔,將行供養。經無量時,而由未證,廣說應知。
また、大王よ。私は昔、父と母がともに目が見えなかったため、いつも肩と背中で背負って、連れ歩きながらお世話をしました。長い間そうしてまいりましたが、それでもまだ悟りには至りませんでした。このことについては、詳しく申し上げれば、ご理解いただけるはずです。
「復次大王!我為利益諸有情故。大王諦聽!世間邪見,而依俗法,父母將老,或令飢餓、溺在河中、或將入火燒身之事,言得生天。我設方法,並令禁斷此非法事,廣說應知。
「また、大王よ。わたしはすべての生きとし生けるものの利益のため、そのようなことをいたします。大王、どうかよくお聞きください。世の中には間違った考え方(邪見)があり、世間の慣わしに従って、年老いた父母を飢えさせたり、川に流したり、火の中に投げ入れて焼き殺すことが、天国に生まれるための行いであるとされています。わたしはそのような間違った方法を考え出し、そのような非道な行いをすべて禁じました。このことについては、詳しくお話しするべきでしょう。
「復次大王!更有無量因緣,並於《那迦藥叉經》中廣說。
また、大王よ、さらに無数の因縁があるが、それらはすべて『那迦薬叉経』の中で詳しく説かれている。
「大王!菩薩在不定聚,作獼猴王,於五百獼猴中為尊貴。婆羅痆斯被梵德王怕懼之時,我於爾時,捨自身命,救五百獼猴,廣說應知。
「大王よ、菩薩は未だ悟りを定めていない境地にありながら、猿の王として生まれ、五百匹の猿たちの間で尊い存在でした。バラナシで梵徳王が恐れをなした時、その時に私は自らの命を捨てて、五百匹の猿たちを救いました。詳しい話は、このように知るべきです。」
「復次大王!菩薩在不定聚時,生於雉身,如《雉本生經》中廣說。
また、大王よ。菩薩が不定聚の位にあったとき、雉の身に生まれたことがあります。これについては『雉本生経』に詳しく説かれています。
「復次大王!菩薩在不定聚時,生在象中,如《象本生經》中廣說。
また、大王よ。菩薩が未だ悟りを得る定まった境地にない時、象として生まれることがありました。その詳細は『象本生経』に詳しく説かれています。
「復次大王!菩薩在不定聚時,生在龍趣,名曰矚波龍子,於《龍本生經》中廣說。
また、大王よ。菩薩がまだ悟りの定まらざる境地におられた時、龍の世界に生まれたことがありました。その名を「眺波龍子」といい、その詳しい物語は『龍本生経』に広く説かれています。
「復次大王!菩薩在不定聚時,作鵝王身,如《鵝本生經》中廣說。」
「また、大王よ。菩薩が不定聚(正しい悟りへの道がまだ定まっていない立場)にあったとき、鵞鳥の王として生まれたことがあります。この話の詳細は『鵞本生経』に説かれているとおりです。」
爾時勝光大王白佛言:「大德世尊!於何時初發無上菩提之願?」佛告大王:「乃往古昔無量劫時,有王名曰光明。其光明王有一象寶,身色鮮白如優鉢花,七支圓滿,形貌端嚴,人所喜見。時王即勅調象之人:『令調此象,堪乘之時,將來見我。』其調象人受王勅已,即將調教。既成就已,還詣王所。王即乘象,并調象人,王在後坐,出城遊獵種種禽獸。然而象王聞母象氣,尋香而走。王見象走其疾如風,告象師曰:
その時、勝光大王が仏に申し上げました。「尊き世尊よ、いつ初めて無上なる悟りを求める誓いを立てられたのですか?」
仏は王に告げられました。「遥か昔、数えきれない劫の昔のことです。その時、光明という名の王がいました。その光明王には一頭の象がいました。その象は、その身の色が清らかに白く、青蓮華のようであり、七つの部分が円満に整い、姿かたちは端正で美しく、人々に愛されました。
そこで王は象使いに命じました。『この象を調教し、乗りこなせるようになったなら、私のところに連れて来なさい。』象使いは王の命令を受けると、象の調教を始めました。
調教が成し遂げられると、象使いは王のもとを訪れました。王は象に乗り、象使いも連れて、王は後ろに座り、城を出て狩りに出かけました。様々な鳥獣を追ったのですが、その時、象王が母象の匂いを嗅ぎつけ、その香りをたどって走り出しました。
王は象が風のように速く走るのを見て、象使いに告げました。
「『我見虛空轉, 四方上下迴;
山地如陶輪, 樹亦空中去。
象足不曾移, 猶如騰空去;
觀前山走來, 後山無不動。
須勒象令住, 極打令其怕;
象王既未調, 死生今在即。』
「私は虚空が回転するのを見た、四方上下に巡る; 山や大地は陶工のろくろのよう、木々もまた空中を去ってゆく。 象の足は決して動かないのに、まるで空を飛ぶかのよう; 前方の山が近づいてくるのを見るが、後方の山は少しも動かない。 象を制御して止めさせよ、強く打って恐れさせよ; 象の王がまだ調教されていないならば、生死の時は今まさに迫っている。」
「爾時調象師白王曰:
その時、象使いが王に向かって申し上げました。
「『我誦大仙所說呪, 并以鐵鉤鉤極打;
誦呪鉤打唯加急, 所用之法皆無益。
無索無鉤能禁制, 王知無物何能止;
貪欲入心無調者, 欲在心中如掘釘;
此欲發時甚廣大, 無有能為止息者。』
「私は大仙が説いた呪文を唱え、鉄の鉤で激しく打ち据える。 呪文を唱え、鉤で打つことだけを急いでも、使う術はすべて無駄である。 縄も鉤もなく、制することのできないものが——王よ、何も持たない者に、どうして止められようか。 貪りの欲が心に入り込めば、これを調える者はない。 欲は心の内に釘を打つように深く留まり、 一度生じればその広がりは甚だしく、 これを止め得る者はいないのである。」
「爾時調象師作種種法,不能止息而令象迴。又白王言:『其象走困,願王攀取樹枝,放象隨意。』即逢一樹,王及象師攀枝而住,喻如從死而得再生。王告象師曰:『汝不調此象成就,便即將來與我乘騎。』白王曰:『我調成就,然為彼象聞雌象氣,貪欲醉故不受言教。其象雖去,思憶本處,至第七日,必還來到。所以者何?由見母象,共行欲已,思憶象坊。』至第七日,其象還來。時調象人速詣白王。王曰:『汝教此象,未好成就。』其人白王:『我調象已。』責曰:『云何調伏?』白言:『請王驗試,即知虛實。』其調象人,即燒大鐵丸,色赤如火,令象取食;象即詣前,欲取吞食。其教象人復白王言:『象若食之,象必不活。』時王告象師曰:『如斯調伏,當時為迷亂我。』先白王:『我但調伏其身,不能調心。』王曰:『汝頗見有能調心者?』象師白王言:『有!唯佛世尊能調身心。一切有情欲調其心,由不能調,而皆却退。有諸外道修行苦行,貪欲叢林在心而不能拔;亦有捨境離欲貪處,而不堅持,復還退失。阿素落等,及以天人、師子雜獸、龍蛇鳩鴿,乃至飛鵝雜類等,一切含識皆被欲縛,無始已來如輪迴轉。少年容貌乃至於老,調伏其心,種種苦行,或有仙人,飡風食菓,皆不調心。心雖無相,誰有天人能得自在?言大王者,有大威力,諸鬪戰中最能殊勝,亦不調心;唯佛世尊無有貪欲心得自在。』」爾時大王聞佛世尊有精進力,廣行惠施,修諸福業,即發無上菩提之願,說伽他曰:
その時、調象師はさまざまな方法を用いたが、象を止めて引き戻すことはできなかった。また王に申し上げた、「この象は走り疲れております。どうか王は木の枝をお取りになり、象を思いのままにさせてください」。ちょうどその時、一本の木に遭い、王と象師は枝に攀じって留まった。それはまるで死から再び生を得たかのようであった。王は象師に告げた、「お前はこの象を調え成したとは言えずして、そのまま私に持ってきて乗り物にさせたのだ」。象師は王に申し上げた、「私は調え成しました。しかし、あの象は雌象の匂いを嗅ぎ、貪欲の醉いに耽って、言い付けを受け入れなかったのです。その象は去っても、元の場所を思い慕い、七日目には必ず戻ってまいります。なぜなら、母象を見て共に欲を行じた後、象舎を思い起こすからであります」。七日目になり、その象は戻ってきた。時に調象師は急いで王に申し上げた。王は言った、「お前はこの象を教えても、まだよく調え成してはいない」。その人は王に申し上げた、「私は既に象を調えました」。王は責めて言った、「どのように調伏したのか」。申し上げた、「どうか王がお試しくだされば、虚実がすぐに分かります」。その調象師はすぐに大きな鉄の丸を焼き、色は火のように赤くして、象にこれを取って食わせようとした。象はすぐに前に進み出で、取って呑み込もうとした。その教象師はまた王に申し上げた、「もし象がこれを食せば、象はきっと生きられません」。その時、王は象師に告げた、「このような調伏は、まさに私を惑わすものであった」。先に王に申し上げた、「私はただその身を調伏したのみで、その心を調えることはできませんでした」。王は言った、「お前は心を調えることのできる者を見たことがあるか」。象師は王に申し上げた、「あります!ただ仏世尊のみが身と心とを調えることができます。すべての有情はその心を調えようと欲しますが、調えることができず、皆退いてしまいます。諸々の外道は苦行を修行しますが、貪欲の叢林は心の中に在って抜き去ることができません。また境を捨て、欲や貪りを離れるところもありますが、堅く持続せず、また退いて失ってしまいます。阿素落など、また天や人、獅子や雑獣、龍蛇、鳩鳩、さらに飛び交う鵝の雑類など、すべての含識は皆欲に縛られ、無始このかた、輪迴のように転じています。少年の容貌より老いに至るまで、その心を調えんと、種々の苦行を行います。あるいは仙人があり、風を食とし果を食らう者も、皆心を調えることはできません。心は相が無くとも、誰が天や人として自在を得ることができましょうか。大王と言われる方は、大きな威力を持ち、諸々の戦いの中でもっとも殊勝でありながら、なお心を調えられません。ただ仏世尊のみが貪欲無く、心得て自在であります」。その時、大王は仏世尊に精進の力があり、広く布施を行い、諸々の福業を修められることを聞いて、すなわち無上の菩提の願いを発し、伽他を説いて言った、
「『修無量福求佛果, 得成善逝自在尊;
若未能度彼岸者, 我當誓度令至岸。
聞佛離欲發菩提, 復行惠施正法化;
願我當來得成佛, 利益有情貪欲滅。』」
「無量の福を修めて仏の悟りを求め、 善逝たる自在一尊となることを得ん。 もし彼岸に渡り得ざる者あらば、 我は誓いて渡さん、彼岸に至らしめんと。 仏の離欲を聞きて菩提心を発し、 さらに布施を行じ、正法を説きて導かん。 願わくば我、未来に成仏を得て、 あらゆる有情の貪欲を滅ぼさんことを。」
佛告大王:「於意云何?彼時名光明王者,豈異人乎?即我身是。我於爾時,初發無上菩提之意。」
仏は大王に告げられた。「あなたはどう思いますか。そのときの光明王という者は、他の誰かでしょうか。すなわち、私自身なのです。私はそのときに、初めて無上の悟りを求める心を起こしたのです。」
爾時勝光王復白世尊曰:「最初於誰行施得證無上菩提?」佛告大王:「乃往古昔無量劫時,有城名曰毘訶彼地,其城有一陶輪工師。有佛出世,號曰釋迦牟尼,證無上正真等正覺,十號具足。亦有聲聞弟子,名舍利弗、大目乾連,及侍者阿難陀。時釋迦牟尼佛正真等正覺,共無量苾芻眾俱遊行人間,至彼城中。爾時彼佛忽有風患,即告阿難陀曰:『汝可往彼陶輪家乞酥油蜜漿。』爾時阿難陀聞佛教勅,即往詣陶輪家,在門外立,白言:『長者!世尊患風強病,今須酥油蜜漿。』時陶輪師聞具壽阿難陀所說,即將酥油蜜等,長者共兒相隨,俱往佛所,以酥蜜等遍塗佛身,溫水沐浴,持沙糖水奉上世尊,為療病故,即得痊愈。爾時陶師長跪發願,說伽他曰:
この時、勝光王は再び世尊に申し上げました。「最初に誰に施しをして、無上の悟りを得たのでしょうか?」
仏は王に告げられました。「遠い昔、無量劫の昔のことです。毘訶という名の都があり、そこに陶器を作る職人がいました。その時、釈迦牟尼という名の仏がこの世に現れ、無上の正しい悟りを成就し、十の尊号をすべて備えておられました。また、声聞の弟子として、舎利弗、大目乾連、そして侍者の阿難陀がいました。
その釈迦牟尼仏は、無量の僧侶たちと共に人々の間を巡り歩き、その都に到着されました。その時、仏は風の病にかかられ、阿難陀に告げられました。『あの陶器職人の家に行って、酥・油・蜜・飲み物を乞いてきなさい。』
阿難陀は仏の教えを聞き、陶器職人の家を訪れ、門の外に立って告げました。『長者よ、世尊が風の重い病にかかられました。今、酥・油・蜜・飲み物が必要です。』
陶器職人は、阿難陀の言葉を聞くと、酥・油・蜜などを用意し、長者は息子と共に仏のもとへ参りました。そして、酥や蜜を仏の全身に塗り、温かい水で沐浴させ、砂糖水を世尊に差し上げました。病を治すためです。これにより、仏はたちまち癒えました。
その時、陶器職人はひざまずいて、心から誓いを立て、次の詩を唱えました。
「『我以蘇蜜施如來, 願獲廣大功德利;
種族名號聲聞眾, 悉如今日釋迦尊;
善能調伏有情類, 遠離眾苦歸圓寂。』
「私は酥蜜をもって如来に供養し、広大な功徳の利益を得んことを願う。 種族、名号、声聞の衆も、 すべて今日の釈迦尊の如くあり、 衆生をよく調伏し、苦しみを離れて涅槃に帰さんことを。」
「其陶輪子亦發是言:『願我當來如佛侍者。』」佛告大王:「我於爾時,初施釋迦如來,得證無上菩提。其子者,即阿難陀是。」
「その陶器を作る男の子もまた、こう言いました。『私もいつか、仏様のおそばに仕える者になりたい』と。そこで仏は王様にこうお告げになりました。『私はその時、初めて釈迦如来に供養をして、この上ない悟りを開くことができました。そして、その男の子こそが、阿難(アーナンダ)なのです。』」
王復問世尊曰:「從初乃至成佛,供養幾許諸佛,而證無上菩提?」佛告大王:「我從釋迦如來最初阿僧企耶,乃至護世佛時,以清淨心,如是供養七萬五千佛,於爾許時供養不曾心異,唯求無上正等菩提。大王!第二僧企耶,我初供養燃燈佛,乃至寶髻佛,以清淨心,如是供養七萬六千佛。我雖經歷多生,心無有異,常以清信供養諸佛。大王!第三阿僧企耶,初供養寶髻佛,乃至安隱佛。如是供養七萬七千佛,如是又至迦攝波佛。我雖供養無有異心,常以淨信供養諸佛。為菩薩時如是供養,皆蒙諸佛為我受記,當證無上正等菩提。滿我所願,思求正覺,堅固釋持,慈攝一切有情故。」爾時勝光王聞佛說已,心大歡喜,頂禮雙足,奉辭而去。
王が再び世尊に問うた。「最初の発心から成仏に至るまで、いったいどれほどの諸仏に供養して、無上の正覚を証得されたのですか?」
仏は大王に告げた。「私は釈迦如来の時代の最初の阿僧祇劫(あそうぎこう)から、護世仏の時代に至るまで、清らかな心をもって、このように七万五千の諸仏に供養しました。その長い間、供養の心にいささかの変化もなく、ただ無上の正等菩提のみを求め続けました。
大王よ、第二の阿僧祇劫のとき、私は最初に燃灯仏に供養し、宝髻仏に至るまで、清らかな心をもって、このように七万六千の諸仏に供養しました。私は多くの生を経ても、心に少しの変化もなく、常に清らかな信をもって諸仏に供養しました。
大王よ、第三の阿僧祇劫のとき、最初に宝髻仏に供養し、安穏仏に至るまで、このように七万七千の諸仏に供養しました。さらに迦葉仏に至るまで供養しました。私はいずれの供養においても異なる心をもつことなく、常に清らかな信をもって諸仏に供養しました。
菩薩であった時代にこのように供養し、すべての諸仏から、まさに無上の正等菩提を証得するであろうと授記を受けました。私の願いを満たし、正覚を求める思いは堅固に保ち、慈悲をもってすべての有情を摂受するためでありました。」
そのとき、勝光王は仏の説法を聞いて、心から大いに喜び、仏の両足に頭を接してお礼をし、敬って辞去した。
時具壽阿難陀即以伽陀,請世尊曰:
時に、阿難尊者は詩句をもって世尊にこう申し上げました。
「唯願世間尊, 為我分別說;
何處初發意? 為求大菩提。
更願無上士, 為說本事緣,
曾供養幾佛? 復經幾許時?」
「どうか、世の尊よ、わたしのために詳しく説いてください。どこで最初に菩提心をおこされたのか。また、無上の師よ、過去の因縁をお示しください。どのような仏にどれほど供養し、どれほどの時を経てきたのでしょうか。」
爾時世尊以頌答曰:
その時、世尊は偈(うた)の形で答えられた。
「無上兩足尊, 慈愍有情者;
於彼發菩提, 誓度三有海。
聞佛心離欲, 廣說醉象緣;
厭離貪欲習, 因發菩提心。
堅固發誓願, 惠施如河沙;
光明王世時, 專求正覺等。
初見釋迦佛, 我作陶輪師;
酥油蜜漿等, 最初為供養。
亦曾為上女, 正信三寶尊;
我見憍陳佛, 以燈油奉施。
無勝佛世時, 我曾作三藏;
共大眾相競, 惡罵僧為女。
由斯口惡業, 變我身為女;
却迴心淨已, 還變為丈夫。
乃往過去世, 曾為王子時;
寶髻佛兄弟, 我以燈明施。
三月曾供養, 安隱佛世尊;
佛滅度之後, 以舍利起塔。
曾作富長者, 三月供養佛;
世尊滅度後, 建塔九十肘。
後見有勝佛, 梵志中為最;
舉手合掌敬, 供養人中尊。
昔時作梵志, 書論悉明解;
我逢利益佛, 施座奉如來。
往修苦行時, 曾住仙人法;
見憍陳世尊, 捉身欲山下。
我曾作仙人, 遇逢樂見佛;
諸佛至居處, 以根菓供養。
往昔作仙人, 見善眼世尊;
以著樹皮衣, 持施覆其身。
昔曾作人王, 供養勒叉佛;
頓捨四兵眾, 求無上菩提。
從初釋迦佛, 至於護世佛;
七萬五千佛, 我皆盡供養。
此是一僧祇, 如是行供養;
一心無異別, 恒發菩提願。
次見燃燈佛, 多聞甚可愛;
以七青蓮花, 作梵志持供。
我曾作國王, 見佛名有相;
於佛修行處, 供養此如來。
我曾作國王, 有佛名住修;
以妙色珍寶, 音聲而供養。
我曾作國王, 佛號超師子;
我以寶幡蓋, 供養此如來。
我曾作國王, 佛名安隱日;
王有一千城, 皆令修供養。
我曾作國王, 有佛名梵志;
以浴室香湯, 依時沐浴佛。
我昔作國王, 城中而供養;
三千梵志佛, 及一尸棄佛。
我曾作長者, 於財增城中;
供二十五佛, 修行於梵行。
我曾作長者, 於彼大城中;
供養尸棄佛, 建立寺舍塔。
其寺供七佛, 奉施珍寶具;
及以奴婢等, 莊宅花園林。
曾作王信敬, 於尸棄佛所;
復在彼城中, 唯求正等覺。
昔曾作梵志, 有佛名歡喜;
為求菩提故, 以果先供養。
曾作長者時, 有佛名善眼;
我以摩尼寶, 供養此如來。
亦曾作商主, 有佛名善生;
坐於菩提樹, 以餅先供養。
於千商人中, 曾作千商主;
見佛坐菩提, 號名善意佛。
香泥塗佛上, 復以扇招涼;
佛邊坐聽法, 聞法心開悟。
昔作商人主, 有佛名釋迦;
我以眾寶花, 以花散佛上。
昔作商人主, 有佛名高登;
以幡花音樂, 供養如是佛。
我曾作國王, 有佛名最上;
超越諸有海, 當施眾車輅。
我曾作國王, 有佛名最尊;
佛行百里內, 地散諸妙花。
我於過去世, 聞佛欲來過;
遠將勝幡蓋, 并四兵圍遶。
有佛欲渡河, 我當作舡師;
見佛心歡喜, 渡佛到彼岸。
我曾作商主, 有佛名賢車;
為佛造橋梁, 令佛安隱渡。
我曾作國王, 有佛名大梵;
牛頭香造寺, 以供養於尊。
著僧伽胝衣, 以覆如來上;
儉世檀香浴, 降雨人歸佛。
我曾作國王, 有佛名淨月;
國有多疾疫, 供佛疫皆除。
我昔作王時, 有佛名調帝;
請佛說妙法, 為求菩提道。
我昔作王時, 有佛名梵尊;
施佛僧伽胝, 用覆如來上。
當時國中儉, 我以旃檀湯;
沐浴如來體, 豐樂人歸佛。
我昔作王時, 有佛名帝釋;
其國有災起, 王發慈止息。
我昔作王時, 供養調帝佛;
用諸百萬寶, 造食獻如來。
昔為梵志信, 見佛名悉達;
以百千頌讚, 供養天人師。
昔為梵志時, 佛名帝釋幢;
合掌以正信, 當來願如佛。
始從燃燈佛, 至於帝釋幢;
七萬六千佛, 我皆盡供養。
滿二阿僧祇, 供養於諸佛;
不曾心有異, 志願菩提處。
第三阿僧祇, 亦為王供養;
佛名安隱日, 滅度而起塔。
我昔為國王, 種種供養佛;
滿足皆隨意, 起塔名法王。
昔為大商主, 見佛名悉供;
我以眾金花, 散佛呈供養。
昔為商人時, 見佛名寶髻;
為佛作金網, 以覆大師上。
昔為商人時, 佛名上蓮花;
作銀花供養, 散布如來上。
昔為商人時, 見佛名上稱;
我以上妙室, 供養於如來。
昔為大國王, 佛號名勝論;
正證菩提日, 我以四兵護。
昔為商人時, 見佛名無垢;
造塔并浴室, 及以燃燈明。
我昔作王時, 見佛名合覺;
坐石而入定, 音樂以供養。
昔為商人時, 見佛名修行;
降怨度人眾, 掃地令佛過。
昔為商人時, 聞佛名淨住;
欲來造寺舍, 園苑毘訶羅。
昔為大國王, 有佛名相師;
摩尼寶供養, 我時為菩薩。
昔為大國王, 有佛名繫都;
我造法王塔, 繒幡以供養。
昔為大國王, 有佛名捨重;
我以瓶杖施, 起塔并設會。
我昔為商主, 有佛名見義;
以金寶真珠, 種種香供養。
我為大國王, 佛名諸兵義;
佛遊於人間, 四兵迎供養。
我為大國王, 佛名他利見;
欲入於城內, 設樂香花供。
我昔為商主, 有佛名底沙;
以諸莖木香, 根香散供佛。
「我昔曾為大仙人, 見晨宿佛在寶龕;
但一伽他而讚佛, 超過九劫修苦行。
昔為梵志名最上, 見佛名曰毘婆尸;
兩手持苣發菩提, 歡喜布散如來上。
菩薩昔為商主時, 見佛世尊名尸棄;
并有弟子聲聞眾, 三月衣食而供給。
昔為商人深正信, 於彼毘婆尸佛所;
并諸弟子聲聞眾, 三月衣食而供給。
昔為商人深正信, 佛名迦留村陀佛;
請佛家資盡布施, 隨佛出家持梵行。
昔為商人深正信, 見佛迦耶迦牟尼;
先造立寺生恭敬, 後乃方隨佛出家。
昔為梵志名最勝, 於兩足尊迦葉佛;
由聞喜護所說語, 乃得出家修淨意。
菩薩昔作國王時, 於彌勒仙修供養;
入定見我當作佛, 時仙却來供養我。
從安隱佛至迦葉, 供養七萬七千佛;
一切如來皆奉侍, 乃能數滿三僧祇。
皆悉歡喜而供事, 未曾少許心別異;
皆發無上菩提願, 為菩薩時供養佛。
一切示現而授記, 對眾咸言當作佛;
我先求願皆滿足, 如先所願今思忖。
此願皆令得滿足, 彼佛世尊諸大德;
授我無上菩提記。 我昔曾作尸毘王,
復為一切施主時, 并及尾濫大王身,
捨身捨寶行檀度。 昔為商主入大海,
持戒專求趣彼岸, 能害自身令眾樂,
皆令得度於苦海。 往昔曾作仙人時,
常行忍辱波羅蜜, 身體手足被支解,
由行忍辱心無退, 如緊那羅本生說。
我曾欲竭於大海, 以滿精進波羅蜜,
皆由口業真實語。 昔名藥物大臣時,
牛出梵志共論義, 當滿般若波羅蜜,
諸天擊鼓而助喜。 昔為梵志名生然,
勤修勝禪波羅蜜, 頭上鳥生男女卵,
定中不起鳥能飛。 修行滿六波羅蜜,
慈心常有思念處, 我廣心求尊重願,
發願願求皆滿足。 彼諸大德一切佛,
我皆供養天人師, 三有苦海諸眾生,
一切皆歸涅槃路, 我為菩薩修供養。
從彼光明王身後, 乃至帝幢佛世尊;
度得一千俱胝眾, 況復成佛度無邊。
世間之尊大導師, 已度未度人天眾;
我已置立橋船筏, 堅固度於諸有情。
我若入於圓寂後, 由能濟度無邊人,
諸有能修福德者, 當來皆入涅槃城。
我若入於圓寂後, 而能修集於佛事,
少許供養於形像, 即得生天無量樂。
我若入於圓寂後, 遺留法寶甘露味,
如若有情聞此者, 皆能修習出離去。」
私はかつて大いなる仙人であり、宝龕の中の晨宿仏をお見かけしました。 しかし一つの伽他(詩句)で仏を讃えただけで、九劫の苦行を超える功徳を得ました。
昔、梵志(バラモンの修行者)で最上と名乗り、毘婆尸仏という仏にお目にかかりました。 両手にゴマの花を持って菩提心を起こし、喜んで如来の上にまきました。
菩薩がかつて商人の長であった時、尸棄仏という世尊にお会いし、 その弟子である声聞(修行者)の衆とともに、三月の間、衣食を供養しました。
昔、商人として深い正しい信心を持ち、毘婆尸仏の御許で、 その弟子の声聞の衆とともに、三月の間、衣食を供養しました。
昔、商人として深い正しい信心を持ち、迦留村陀仏という仏に、 家财をすべて布施して供養し、その後、仏に従って出家し、清らかな行いを守りました。
昔、商人として深い正しい信心を持ち、迦耶迦牟尼仏という仏にお会いし、 先に寺院を建てて恭敬の心を表し、その後で仏に従って出家しました。
昔、梵志で最勝と名乗り、両足尊である迦葉仏のもとで、 喜護という者の言葉を聞いて、出家し、清らかな心を修めました。
菩薩がかつて国王であった時、弥勒仙に供養をしました。 仙人が禅定に入って私が未来に仏となるのを見て、今度はその仙人が私を供養してくれました。
安隱仏から迦葉仏に至るまで、七万七千の仏を供養し、 すべての如来に仕えたことで、三阿僧祇劫(長い時間)を満たすことができました。
すべての仏を喜んで供養し、少しも心に違いがありませんでした。 すべてに無上菩提の願いを起こし、菩薩であった時に仏を供養しました。
すべての仏が私に授記(未来に仏になるという予言)をしてくださり、 人々の前で「お前は仏となるであろう」とおっしゃいました。 私が先に求めた願いはすべて満たされ、かつての願いを今、このように思います。
この願いはすべて満たされました。あの仏世尊たちの大いなる徳により、 私は無上菩提の授記をいただきました。 私はかつて尸毘王であり、
また一切施主となった時、さらに尾濫大王の身となって、 身を捨て、宝を捨てて布施の行(檀度)を実践しました。 昔、商人として大海に入り、
戒律を守り、ひたすら彼岸(悟り)を求めて渡ろうとし、 自身を犠牲にして衆生を喜ばせ、皆を苦しみの海から渡らせました。 かつて仙人であった時、
常に忍辱(怒りに耐える)の波羅蜜を行じ、体や手足をバラバラにされても、 忍辱の行によって心は退きませんでした。これは緊那羅の本生(前世の物語)に説かれています。
私はかつて大海を干そうとしました。精進波羅蜜を満たすために、 すべて口業(言葉の行い)による真実の言葉によるものでした。 昔、薬の大臣という名であった時、
牛出梵志と共に法義を論じ、般若波羅蜜を満たそうとしました。 すると諸天が太鼓を打ち鳴らして喜びを助けました。 昔、梵志で生然と名乗り、
勝れた禅定の波羅蜜を勤め修めました。頭の上に鳥が卵を産み、 禅定の中にいて動かないので、鳥は飛び去ることができました。 このように六波羅蜜を修行し満たし、
慈しみの心を常に持ち、思うところがありました。私は広い心で尊重すべき願いを求め、 発した願いはすべて満たされました。 あの大いなる徳を持つすべての仏、
私はすべての天人の師を供養しました。三つの世界の苦しみの海にいる衆生は、 すべて涅槃の道に帰するでしょう。私は菩薩として供養を修行しました。
かの光明王の身の後、帝幢仏という世尊に至るまでに、 千俱胝(千億)の衆生を悟りに導きました。ましてや仏となってからは、無量の衆生を導くことでしょう。
世間の尊い大いなる導師は、 まだ悟りを得ていない人や天の衆生をも導かれました。 私はすでに橋や船、いかだを用意し、しっかりと衆生を渡らせました。
私が涅槃に入った後も、無辺の人々を済度することができ、 福徳を修めることのできる者は、未来に涅槃の都に入るでしょう。
私が涅槃に入った後も、仏事を修め集めることのできる者は、 少しでも仏像に供養すれば、天に生まれて無量の楽しみを得るでしょう。
私が涅槃に入った後も、法宝という甘露の味を残すでしょう。 もしも有情(生きとし生けるもの)がこれを聞くならば、 皆、修行して出離(苦しみからの脱出)を成し遂げることができるでしょう。
已上諸佛名。
以上が諸仏の御名です。
根本說一切有部毘奈耶藥事卷第十五
根本説一切有部毘奈耶薬事 巻第十五