大阿羅漢難提蜜多羅所說法住記
大阿羅漢難提蜜多羅所說法住記
大唐三藏法師玄奘奉詔譯
大唐三蔵法師玄奘が勅命を受けて訳しました。
如是傳聞。佛薄伽梵般涅槃後八百年中。執師子國勝軍王都。有阿羅漢名難提蜜多羅(唐言慶友)。具八解脫三明六通無諍願智邊際定等。無量功德皆悉具足。有大威神名稱高遠。以願智力能知此界一切有情種種心行。復能隨順作諸饒益。化緣既畢將般涅槃。集諸苾芻苾芻尼等。說己所證諸妙功德。及應所行利樂有情。諸勝事業皆悉成辦。告時眾曰。自今已後無復所為。唯無餘依是所歸趣。仁等當知有疑可問。時諸大眾聞是語已。舉聲號哭不能自持宛轉於地。或起唱言佛薄伽梵久已涅槃。諸聖弟子亦隨寂滅。世間久空無真調御。今唯尊者為天人眼。如何復欲棄捨我等。願垂哀愍少留壽命。尊者慶友慰喻眾言。不須啼泣。仁等當知世間法爾有生必滅。諸佛如來降伏四魔於壽自在。隨順世故猶示涅槃。況我今者豈宜恒住。設隨汝請亦無利益。當體此意勿生憂惱。但有疑者應可速問。諸苾芻等雖承告示。猶增涕噎良久乃問。我等未知世尊釋迦牟尼無上正法當住幾時。尊者告曰。汝等諦聽。如來先已說法住經。今當為汝粗更宣說。佛薄伽梵般涅槃時。以無上法付囑十六大阿羅漢并眷屬等。令其護持使不滅沒。及勅其身與諸施主作真福田。令彼施者得大果報。時諸大眾聞是語已少解憂悲。復重請言。所說十六大阿羅漢。我輩不知其名何等。慶友答言。第一尊者名賓度羅跋囉惰闍。第二尊者名迦諾迦伐蹉。第三尊者名迦諾迦跋釐墮闍。第四尊者名蘇頻陀。第五尊者名諾距羅。第六尊者名跋陀羅。第七尊者名迦理迦。第八尊者名伐闍羅弗多羅。第九尊者名戍博迦。第十尊者名半託迦。第十一尊者名囉怙羅。第十二尊者名那伽犀那。第十三尊者名因揭陀。第十四尊者名伐那婆斯。第十五尊者名阿氏多。第十六尊者名注荼半託迦。如是十六大阿羅漢。一切皆具三明六通八解脫等無量功德。離三界染誦持三藏博通外典。承佛勅故。以神通力延自壽量。乃至世尊正法應住常隨護持。及與施主作真福田。令彼施者得大果報。
このように伝えられています。仏・世尊が般涅槃(完全な悟りの境地に入ること)された後、八百年の時代のことでした。執師子国(スリランカ)の勝軍王の都に、難提蜜多羅(ナンディミトラ)という阿羅漢(悟りを開いた聖者)がおりました。中国語では「慶友」と訳されます。
この尊者は、八解脱(八つの解脱の境地)、三明(三つの明達)、六通(六つの神通力)、無諍の願智、辺際定(最深の禅定)など、数えきれないほどの功徳をすべてそなえていました。大きな神通力を持ち、名声は遠くまで広がり、その智慧の力によって、この世界のすべての生きとし生けるものの心の動きを知ることができました。また、その力にしたがって、すべての生きとし生けるものに利益をもたらすことを行っていました。
この尊者も、教化の縁が尽きて、まさに般涅槃に入ろうとするときになりました。多くの比丘(僧侶)や比丘尼(尼僧)たちを集めて、自分が証得したさまざまな微妙な功徳や、行うべき利益と衆生を楽しませる教え、優れた事業について説き、すべてを成し遂げた後に、その場の人々に告げました。
「今から後は、なすべきことはもうありません。ただ無余依涅槃(完全な解放の境地)に向かうのみです。皆さん、疑問があれば質問してください。」
この言葉を聞いた大勢の人々は、声を上げて泣き叫び、地面に倒れて転げ回り、自分を抑えることができませんでした。あるいは立ち上がって叫びました。
「仏・世尊はすでに久しく涅槃に入られました。聖なる弟子たちも皆、静かに滅び去りました。この世は長く空しく、真の導き手がいませんでした。今や尊者だけが私たちの目であり頼りです。どうして私たちを捨てて去ろうとなさるのですか。どうか哀れみをもって、しばらく寿命を延ばしてください。」
尊者・慶友は人々を慰めて言いました。
「泣くことはありません。皆さん、知ってください。この世の法則として、生まれたものは必ず滅びます。諸仏・如来は四魔を降伏し、寿命を自在にしていますが、世のならいに従ってなお涅槃を示されます。ましてや私ごときが、どうして永遠にこの世にとどまることができましょうか。たとえ皆さんの願いに応えたとしても、利益はありません。この意味を理解して、憂い苦しむことはありません。疑問があるなら、すぐに質問してください。」
比丘たちは、この告げを受けたけれども、なおいっそう涙にむせび、長い間してから質問しました。
「私たちは知りたいのです。世尊・釈迦牟尼の無上の正しい教えは、どのくらいの間、この世にとどまるのでしょうか。」
尊者は告げました。
「皆さん、よく聞きなさい。如来はすでに『法住経』(教えがとどまる経典)を説かれました。今、簡単に皆さんにお伝えしましょう。
仏・世尊が般涅槃される時、無上の教えを十六人の大阿羅漢とその眷属(弟子たち)に託されました。彼らにその教えを護持させ、滅び失わせないようにせよと。また、彼ら自身が施主(布施する人々)にとっての真の福田(功徳を積む場)となるように命じられました。それによって施す人々が大きな果報(報い)を得ることができるように、と。
この言葉を聞いた人々は、少し悲しみが和らぎました。そして重ねて尋ねました。
「おっしゃる十六人の大阿羅漢の名前を、私たちは知りません。どのような方々なのでしょうか。」
慶友は答えました。
「第一の尊者は賓度羅跋囉惰闍(ピンドーラ・バーラドヴァージャ)です。 第二の尊者は迦諾迦伐蹉(カナカ・ヴァッチャ)です。 第三の尊者は迦諾迦跋釐墮闍(カナカ・バーラドヴァージャ)です。 第四の尊者は蘇頻陀(スビンダ)です。 第五の尊者は諾距羅(ナクラ)です。 第六の尊者は跋陀羅(バドラ)です。 第七の尊者は迦理迦(カーリカ)です。 第八の尊者は伐闍羅弗多羅(ヴァジュラプトラ)です。 第九の尊者は戍博迦(スヴァーカ)です。 第十の尊者は半託迦(パンタカ)です。 第十一の尊者は囉怙羅(ラーフラ)です。 第十二の尊者は那伽犀那(ナーガセーナ)です。 第十三の尊者は因揭陀(インガタ)です。 第十四の尊者は伐那婆斯(ヴァナヴァーシン)です。 第十五の尊者は阿氏多(アジタ)です。 第十六の尊者は注荼半託迦(チュー�ダ・パンタカ)です。
この十六人の大阿羅漢は皆、三明、六通、八解脱などの計り知れない功徳をそなえ、三界(欲望の世界、形のある世界、形のない世界)の煩悩を離れ、三蔵(経・律・論の教え)を学び、さらには様々な外典(仏教以外の書物)にも通じていました。仏の教えを受けたので、神通力によって自らの寿命を延ばし、世尊の正しい教えがある間は、常にそれを護持し、また施主にとっての真の福田となって、施す人々が大きな果報を得られるようにしています。」
爾時苾芻苾芻尼等。復重請言。我等不知十六尊者多住何處。護持正法饒益有情。慶友答言。第一尊者與自眷屬千阿羅漢。多分住在西瞿陀尼洲。第二尊者與自眷屬五百阿羅漢。多分住北方迦濕彌羅國。第三尊者與自眷屬六百阿羅漢。多分住在東勝身洲。第四尊者與自眷屬七百阿羅漢。多分住在北俱盧洲。第五尊者與自眷屬八百阿羅漢。多分住在南贍部洲。第六尊者與自眷屬九百阿羅漢。多分住在耽沒羅洲。第七尊者與自眷屬千阿羅漢。多分住在僧伽荼洲。第八尊者與自眷屬千一百阿羅漢。多分住在鉢剌拏洲。第九尊者與自眷屬九百阿羅漢。多分住在香醉山中。第十尊者與自眷屬千三百阿羅漢。多分住在三十三天。第十一尊者與自眷屬千一百阿羅漢。多分住在畢利颺瞿洲。第十二尊者與自眷屬千二百阿羅漢。多分住在半度波山。第十三尊者與自眷屬千三百阿羅漢。多分住在廣脇山中。第十四尊者與自眷屬千四百阿羅漢。多分住在可住山中。第十五尊者與自眷屬千五百阿羅漢。多分住在鷲峯山中。第十六尊者與自眷屬千六百阿羅漢。多分住在持軸山中。諸仁者若此世界。一切國王輔相大臣長者居士。若男若女發殷淨心。為四方僧設大施會。或設五年無遮施會。或慶寺慶像慶經幡等施設大會。或延請僧至所住處設大福會。或詣寺中經行處等。安布上妙諸坐臥具。衣藥飲食奉施僧眾。時此十六大阿羅漢。及諸眷屬隨其所應分散往赴。現種種形蔽隱聖儀。同常凡眾密受供具。令諸施主得勝果報。如是十六大阿羅漢。護持正法饒益有情。至此南贍部洲人壽極短至於十歲。刀兵劫起互相誅戮。佛法爾時當暫滅沒。刀兵劫後人壽漸增至百歲位。此洲人等厭前刀兵殘害苦惱復樂修善。時此十六大阿羅漢。與諸眷屬復來人中。稱揚顯說無上正法。度無量眾令其出家。為諸有情作饒益事。如是乃至此洲人壽六萬歲時。無上正法流行世間熾然無息。後至人壽七萬歲時。無上正法方永滅沒。時此十六大阿羅漢。與諸眷屬於此洲地俱來集會。以神通力用諸七寶造窣堵波嚴麗高廣。釋迦牟尼如來應正等覺。所有遺身馱都皆集其內。爾時十六大阿羅漢。與諸眷屬繞窣堵波以諸香花持用供養恭敬讚歎。繞百千匝瞻仰禮已。俱昇虛空向窣堵波作如是言。敬禮世尊釋迦如來應正等覺。我受教勅護持正法。及與天人作諸饒益。法藏已沒有緣已周今辭滅度。說是語已一時俱入無餘涅槃。先定願力火起焚身。如燈焰滅骸骨無遺。時窣堵波便陷入地。至金輪際方乃停住。爾時世尊釋迦牟尼無上正法。於此三千大千世界永滅不現。從此無聞此佛土中有七萬俱胝獨覺一時出現。至人壽量八萬歲時。獨覺聖眾復皆滅度。次後彌勒如來應正等覺出現世間時贍部洲廣博嚴淨無諸荊棘谿谷堆埠。平正潤澤金沙覆地。處處皆有清池茂林名花瑞草及眾寶聚。更相輝映甚可愛樂。人皆慈心修行十善。以修善故壽命長遠豐樂安隱。士女殷稠城邑隣次鷄飛相及。所營農稼一種七穫。自然成實不須耘耨。諸仁者於彼時中。國界莊嚴有情果報陳之難盡。具如彌勒成佛經說。彌勒如來成正覺已。為聲聞眾三會說法令出生死得證涅槃。第一會度九十六俱胝聲聞眾。第二會度九十四俱胝聲聞眾。第三會度九十二俱胝聲聞眾。若諸國王大臣長者居士男女一切施主。於今釋迦牟尼佛正法中。能為佛事自種善根。或教他種謂以七寶金銀真珠璧玉香材鍮石銅鐵木石泥漆。或以繒縷或以彩畫。作佛形像及窣堵波。若大若小乃至最小如指節量。或以香花諸妙供具。若多若少而為供養。彼由如是善根力故。至彌勒如來成正覺時善得人身。於彼佛第一會中以淨信心捨俗出家剃除鬚髮披著法服既預聖眾。隨宿願力便得涅槃。是名第一為佛事故種善根者所得果報。若諸國王及以臣庶一切施主。於今釋迦牟尼佛正法中。能為法事自種善根。或教他種。謂於大乘素呾纜藏。所有甚深空性相應諸大乘經。謂般若波羅蜜多經。妙法芬陀利迦經。金光明經。金剛手藏經。首楞伽摩三摩地經。幻喻三摩地經。大神變三摩地經。集諸功德三摩地經。還如來智印三摩地經。具諸威光三摩地經。寶臺經集諸菩薩三摩地經。諸佛攝受經。集請問經。梵王問經善吉問經。勇猛問經。能滿問經。海龍王問經。無熱惱龍王問經。樹幢龍王問經。寶掌問經。寶髻問經。虛空音問經。虛空吼問經。幻網問經。寶女問經。妙女問經。善臂問經。師子問經。猛授問經。金光女問經。說無盡慧經。說無垢稱經。未生怨王經。諦實經。那羅延經。佛花嚴經。蓮華手經。十佛名經。無量光眾經。極樂眾經。集淨華經。大集經。入一切道經。寶幢經。寶聚經。寶篋經。彩畫經。高頂王經。如是等大乘經。有百俱胝部。黨差別復有大乘毘柰耶藏。阿毘達磨藏眾多部類。一切皆是菩薩藏攝。復有聲聞三藏。謂素怛纜藏。毘柰耶藏。阿毘達磨藏。素怛纜藏。有五阿笈摩。謂長阿笈摩。中阿笈摩。增一阿笈摩。相應阿笈摩。雜類阿笈摩。毘柰耶藏中有苾芻戒經苾芻尼戒經。分別戒本諸蘊差別及增一律。阿毘達磨藏中。有攝六問相應發趣等。眾多部類。復有本生鬘讚獨覺鬘讚。於如是等正法藏中。或是佛說或菩薩說或聲聞說或諸仙說。或諸天說或智者說。能引義利乃至有能。於四句頌。若自誦若教他誦。若自讀若教他讀。若自持若教他持。若自解說若教他解說。或於法師恭敬供養。或於經卷恭敬供養。謂以種種香花幡蓋伎樂燈明而為供養。或於經卷以諸雜綵囊帊縷帶而嚴飾之。由如是等善根力故。至彌勒如來成正覺時善現人身。於彼佛第二會中。以淨信心捨離家法。出趣非家。淨除鬚髮披著法服既預聖眾。隨宿願力便得涅槃。是名第二為法事故種善根者所得果報。
そこで、比丘と比丘尼たちは、あらためてこうお願いしました。「私たちは、十六人の尊者が主にどこにお住まいなのかを知りません。どうか、正しい法を守り、生きとし生けるもののためになるようお教えください。」
そこで慶友(きょうゆう)がこう答えました。
「第一の尊者は、自分の眷属である千人の阿羅漢とともに、多くは西の瞿陀尼洲(くどにしゅう)に住んでいます。
第二の尊者は、自分の眷属である五百人の阿羅漢とともに、多くは北の迦湿弥羅国(かしみらこく)に住んでいます。
第三の尊者は、自分の眷属である六百人の阿羅漢とともに、多くは東の勝身洲(しょうしんしゅう)に住んでいます。
第四の尊者は、自分の眷属である七百人の阿羅漢とともに、多くは北の俱盧洲(くるしゅう)に住んでいます。
第五の尊者は、自分の眷属である八百人の阿羅漢とともに、多くは南の贍部洲(せんぶしゅう)に住んでいます。
第六の尊者は、自分の眷属である九百人の阿羅漢とともに、多くは耽沒羅洲(たんもらしゅう)に住んでいます。
第七の尊者は、自分の眷属である千人の阿羅漢とともに、多くは僧伽荼洲(そうぎゃだしゅう)に住んでいます。
第八の尊者は、自分の眷属である千百日人の阿羅漢とともに、多くは鉢剌拏洲(はつらなしゅう)に住んでいます。
第九の尊者は、自分の眷属である九百人の阿羅漢とともに、多くは香醉山(こうすいせん)の中に住んでいます。
第十の尊者は、自分の眷属である千三百人の阿羅漢とともに、多くは三十三天に住んでいます。
第十一の尊者は、自分の眷属である千百人の阿羅漢とともに、多くは畢利颺瞿洲(ひつりようぐしゅう)に住んでいます。
第十二の尊者は、自分の眷属である千二百人の阿羅漢とともに、多くは半度波山(はんどばせん)に住んでいます。
第十三の尊者は、自分の眷属である千三百人の阿羅漢とともに、多くは広脇山(こうきょうせん)の中に住んでいます。
第十四の尊者は、自分の眷属である千四百人の阿羅漢とともに、多くは可住山(かじゅうせん)の中に住んでいます。
第十五の尊者は、自分の眷属である千五百人の阿羅漢とともに、多くは鷲峯山(じゅぶせん)の中に住んでいます。
第十六の尊者は、自分の眷属である千六百人の阿羅漢とともに、多くは持軸山(じじくせん)の中に住んでいます。
諸善き人々よ、もしこの世界のすべての国王、大臣、長者、居士たちが、男であれ女であれ、深く清らかな心を起こして、四方の僧のために大きな施しの会を設け、あるいは五年ごとの無遮施会(むしゃせえ)を設け、あるいは寺を祝い、仏像を祝い、経や幡などを祝う大会を催し、あるいは僧を招いて住まいに大きな福の会を設け、あるいは寺の中の経行処などに赴いて、すばらしい座具や臥具を整え、衣や薬や飲食を僧衆に施すならば、そのとき、この十六人の大阿羅漢とその眷属たちは、それぞれに応じて分かれて赴き、さまざまな姿を現して聖なる姿を隠し、普通の凡夫の群れと同じようにして密かに供養の品を受け、施主たちにすぐれた果報を得させます。
このように、十六人の大阿羅漢は正しい法を守り、生きとし生けるもののためになっています。やがてこの南の贍部洲で人の寿命が極めて短くなり、十歳にまでなると、刀兵の劫が起こり、互いに殺し合います。そのとき、仏法はしばらく滅びてなくなります。刀兵の劫の後、人の寿命はしだいに増して百歳の位に至ります。この洲の人々が、先の刀兵による残害の苦悩を厭い、ふたたび善を修めることを楽しむようになると、この十六人の大阿羅漢は眷属たちとともに、ふたたび人の世に来て、無上の正しい法を称え広め、無量の者たちを導いて出家させ、生きとし生けるもののためにためになることを行います。
このようにして、この洲の人の寿命が六万歳になるときまで、無上の正法は世間に流れ広がり、盛んになってとどまることはありません。その後、人の寿命が七万歳になるとき、ついに無上の正法は永遠に滅びます。そのとき、この十六人の大阿羅漢は眷属たちとともに、この洲の地に集まって会します。神通力をもって、七つの宝で窣堵波(そとば)を造り、それは美しく高く広大です。釈迦牟尼如来・応・正等覚の遺骨は、すべてその中に集められます。
そこで十六人の大阿羅漢は眷属たちとともに、窣堵波を右に回り、さまざまな香や花をもって供養し、恭敬し、讃嘆します。百千回繞り、仰ぎ見て礼を終えると、みな虚空に昇り、窣堵波に向かってこう言います。
『世尊・釈迦如来・応・正等覚に敬礼いたします。私たちは教えを受けて正しい法を守り、天と人とにためにさまざまな利益を行ってまいりました。法蔵はすでに尽き、なすべき縁も終わりました。いま、滅度に入ることをお許しください。』
こう言い終わると、一時にみな無余涅槃に入ります。先に定めた願力によって火が起こり、身を焼きます。灯の炎が消えるように、骸骨は何も残りません。そのとき窣堵波は地に沈み込み、金輪際に至ってようやく止まります。
そのとき、世尊・釈迦牟尼の無上の正法は、この三千大千世界において永遠に滅び、現れることはありません。これ以降、この仏国土には七万俱胝の独覚(どくかく)が一時に現れます。人の寿命が八万歳になるとき、独覚の聖衆もまたみな滅度します。その後、弥勒如来・応・正等覚が世間に出現なさるとき、贍部洲は広く大きに清らかにして、もろもろの荊棘や谿谷や堆埠はなく、平らかで潤い、金沙が地を覆っています。いたるところに清らかな池、茂った林、名花や瑞草、そして多くの宝の集まりがあり、互いに輝き映えて、たいへん愛らしく楽しげです。人々はみな慈しみの心を持ち、十善を修行します。善を修めるゆえに、寿命は長く、豊かで楽しく安らかです。男女は多く集まり、城や村は隣り合って、鶏が飛んで届くほどの距離です。営む農作物は一度の種まきで七度の収穫があり、自然に実り、耕す必要もありません。
諸善き人々よ、そのときの国境の荘厳、生きとし生けるものの果報は、語り尽くすことはできません。詳しくは『弥勒成仏経』に説かれている通りです。弥勒如来が正覚を成し終えると、声聞の衆のために三度の説法の会を開き、生死を出て涅槃を証することを得させます。第一の会では九十六俱胝の声聞衆を導き、第二の会では九十四俱胝の声聞衆を導き、第三の会では九十二俱胝の声聞衆を導きます。
もしもろもろの国王、大臣、長者、居士、男も女も、すべての施主たちが、いま釈迦牟尼仏の正法において、仏のために事を行い、自ら善根を植え、あるいは他の人に植えさせます。それは七宝、金、銀、真珠、璧玉、香材、鍮石、銅、鉄、木、石、泥、漆を用い、あるいは絹糸を用い、あるいは彩画を用いて、仏の形像や窣堵波を作るのです。それが大きくても小さくても、あるいは指の節ほどの最も小さなものでもかまいません。あるいは香や花、もろもろのすばらしい供具をもって、多くても少なくても供養します。その者はこのような善根の力によって、弥勒如来が正覚を成すときに、よく人身を得ます。その仏の第一の会において、清らかな信心をもって俗を捨てて出家し、鬚髪を剃り、法服を身に着け、すぐに聖衆の仲間入りをし、過去の願力に従って涅槃を得ます。これが第一の、仏のために事を行って善根を植えた者が得る果報です。
もしもろもろの国王および臣下や庶民、すべての施主たちが、いま釈迦牟尼仏の正法において、法のために事を行い、自ら善根を植え、あるいは他の人に植えさせます。それは大乗の素呾纜蔵(そとらんぞう)にある、すべての甚深な空性に相応するもろもろの大乗経、すなわち般若波羅蜜多経、妙法芬陀利迦経、金光明経、金剛手蔵経、首楞伽摩三摩地経、幻喩三摩地経、大神変三摩地経、集諸功徳三摩地経、還如来智印三摩地経、具諸威光三摩地経、宝台経、集諸菩薩三摩地経、諸仏摂受経、集請問経、梵王問経、善吉問経、勇猛問経、能満問経、海龍王問経、無熱悩龍王問経、樹幢龍王問経、宝掌問経、宝髻問経、虚空音問経、虚空吼問経、幻網問経、宝女問経、妙女問経、善臂問経、師子問経、猛授問経、金光女問経、説無尽慧経、説無垢称経、未生怨王経、諦実経、那羅延経、仏花厳経、蓮華手経、十仏名経、無量光衆経、極楽衆経、集浄華経、大集経、入一切道経、宝幢経、宝聚経、宝篋経、彩画経、高頂王経などです。このような大乗経は百俱胝の部類があり、それぞれに違いがあります。また大乗の毘奈耶蔵(びなやぞう)、阿毘達磨蔵(あびだつまぞう)にも多くの部類があり、すべて菩薩蔵に含まれます。
また声聞の三蔵があります。すなわち素怛纜蔵、毘奈耶蔵、阿毘達磨蔵です。素怛纜蔵には五つの阿笈摩(あぎゅうま)があります。すなわち長阿笈摩、中阿笈摩、増一阿笈摩、相応阿笈摩、雑類阿笈摩です。毘奈耶蔵には、苾芻戒経、苾芻尼戒経、分別戒本、諸蘊差別、および増一律があります。阿毘達磨蔵には、摂六問相応発趣など、多くの部類があります。また本生鬘讃、独覚鬘讃もあります。
このような正法蔵の中で、あるいは仏が説き、あるいは菩薩が説き、あるいは声聞が説き、あるいは諸仙が説き、あるいは諸天が説き、あるいは智者が説いたものです。義と利とを導くことができ、あるいは四句の頌においてさえ、自ら誦し、あるいは他に誦させ、自ら読み、あるいは他に読ませ、自ら持ち、あるいは他に持たせ、自ら解説し、あるいは他に解説させます。あるいは法師に恭敬し供養し、あるいは経巻に恭敬し供養します。それは種々の香、花、幡、蓋、伎楽、灯明をもって供養するのです。あるいは経巻を、もろもろの雑彩の袋や帕や糸帯で飾ります。このような善根の力によって、弥勒如来が正覚を成すときに、よく人身を現します。その仏の第二の会において、清らかな信心をもって家の法を捨て離れ、家ならざるへと出で、鬚髪を浄め、法服を身に着け、すぐに聖衆の仲間入りをし、過去の願力に従って涅槃を得ます。これが第二の、法のために事を行って善根を植えた者が得る果報です。」
若諸國王及臣庶等。一切施主於今釋迦牟尼佛正法中。能為僧事自種善根。或教他種。謂諸苾芻苾芻尼眾。或次第請或隨緣請。於月一日或月八日或十五日設齋供養。或往寺中若供養佛。若供養眾或作給侍。或有供養修靜慮者。或有供養諸說法者。或見有人欲於正法學習流布。從師聽受不作留難。施其所安無令怯退。或設五年無遮施會。或施四方僧。或施寺舍及坐臥具。或施鍾磬或施園林。如是等類供養僧眾。彼由如是善根力故。至彌勒如來成正覺時善得人身。於彼佛第三會中。以淨信心捨離家法出趣非家。淨除鬚髮披著法服既預聖眾。隨宿願力便得涅槃。是名第三為僧事故種善根者所得果報。
ある国王や臣民などのすべての布施者たちが、今の釈迦牟尼仏の正しい教えにおいて、僧団のために善い根を自ら植え、あるいは他の人にも植えさせることを教えます。すなわち、比丘や比丘尼の僧侶たちを、順番に招いたり、縁に従って招いたりして、毎月の一日、八日、または十五日に供養の食事を設けたり、寺に参って仏に供養したり、僧侢に供養したり、あるいは給仕をしたりします。あるいは、静かに瞑想を修行している人に供養したり、法を説く人に供養したりします。また、正しい教えを学び、広めようと願う人を見たなら、師について聴聞するのを妨げず、安心して修行できるように施し、怖気づいて退くことがないようにします。あるいは、五年に一度の無遮の供養会を設けたり、四方の僧侶に布施したり、寺院や坐臥具を施したり、鐘や磬を施したり、園林を施したりします。このようにして僧団に供養するのです。彼らはこのような善い根の力によって、弥勒如来が正しい悟りを成就される時には、すぐれた人身を得ることができます。そして、その仏の第三の説法会において、清らかな信心をもって家を捨て、出家して非家に入り、鬚髪を剃り落として法衣を身につけます。聖なる僧侶の仲間に入ることができれば、前世の願いの力に従って、そのまま涅槃を得ることができます。これが第三の、僧団のために善い根を植える者が受ける果報なのです。
爾時慶友大阿羅漢。為諸大眾廣說如上事已。以神通力於大眾前身昇虛空。高七多羅樹。示現種種不可思議雙神變事。令所觀眾增進勝道。時彼尊者現神變已。即於空中結跏趺坐。捨諸壽行及諸命行。入無餘依般涅槃界。先定願力火起焚身。於虛空中雨身遺骨。時諸大眾悲歎希有。競收遺骨起窣堵波。以諸香花寶幢幡蓋伎樂燈明常為供養。此法住記古昔諸師展轉相承誦持不忘。為令一切國王大臣長者居士諸施主等。了達因果厭生老病死芭蕉幻焰泡沫之身。修諸勝業於當來世逢事彌勒。解脫煩惱得大涅槃生愛樂故。於佛正法護持建立令久不滅。
時に慶友大阿羅漢は、大勢の聴聞者たちに対して上記の教えを広く説き終えました。そして神通力をもって、聴聞者の面前で虚空に身を昇らせ、七多羅樹の高さに達しました。種々の不可思議な両神変の働きを示し、見る者すべてをして勝れた道へと進ませました。
その尊者は神変を示し終えると、虚空の中で結跏趺坐(けっかふざ)の坐り方をし、寿命の行や命の行をすべて捨て去って、無余依(むよえ)の涅槃の境界に入りました。先に立てた誓いの力により火が起こって身を焼き、虚空の中で身の遺骨が降り注ぎました。
その時、大勢の聴聞者たちは悲しみ嘆き、この希有な出来事を讃え、競って遺骨を集め、卒塔婆(そとうば)を建てました。そして香や花、宝幢(ほうどう)や幡蓋(ばんがい)、伎楽や燈明をもって、常に供養しました。
この「法住記」は、昔の諸師たちが代々受け継ぎ、誦持して忘れることがありませんでした。それは、あらゆる国王、大臣、長者、居士、そしてすべての施主たちが、因果の道理を理解し、生・老・病・死や、芭蕉・幻・焰・泡沫のようなこの身を厭うて、勝れた善い行いを修め、未来世において弥勒菩薩に遇い、煩悩を解脱して大涅槃を得ることを愛楽し、仏の正法を護持し建立して長く滅びないようにするためです。
大阿羅漢難提蜜多羅所說法住記
大阿羅漢難提蜜多羅所說法住記