大寶積經并序
『大宝積経』並びに序
大唐太上皇製
大唐太上皇製
朕聞:天之為大也高,上下之容可紀,地之為大也廣,縱橫之數可推,則知無去無來、不生不滅。拯沈淪於沙劫、救焚灼於塵區,毒龍懼其威光、醉象憚其神力,其大則包於宇宙,其小則隱於毫芒。七十二君,先在陶鈞之內,萬八千載,即為俄頃之間,漢日載其通暉,周星彰其降誕,鷲頭峯下演金口之微言,雞足山中舒玉毫之瑞色,干戈不用,梵志摧鋒,甲冑無施,波旬潰旅。闢圓明之淨域,啟方便之禪門,慧晷耀於昏衢,慈雲清於朽宅,無得而稱者,其惟正覺乎。然則教自西方、法流東夏、馬鳴、龍樹肇闡瓊編,羅什、道安承宣寶偈,關中道俗雖傳貝葉之文,江左黎元未極蓮花之旨。又以元魏迷於釋典,宇文扇於魔風,開皇之初暫為修建,大業之末遽即分崩。我大唐之有天下也。
私は聞く。天が大いなるものとして高く、上下の広がりは測り知ることができ、地が大いなるものとして広く、縦横の広がりは推し量ることができる。それゆえ、去ることなく来ることなく、生ずることなく滅することない道理を知る。砂劫の沈淪を救い、塵界の焚灼を救う。毒龍はその威光を恐れ、醉象はその神力を畏れる。その大いさは宇宙を包み、その小ささは毫芒に隠れる。七十二君も、先に陶鈞の内にあり、万八千載も、即ち俄頃の間に過ぎない。漢の日はその通暉を載せ、周の星はその降誕を彰わす。鷲頭峰の下で金口の微言を演じ、雞足山の中で玉毫の瑞色を舒べる。干戈を用いずして梵志の鋒を摧き、甲冑を施さずして波旬の旅を潰す。円明の浄域を開き、方便の禅門を啓く。慧晷は昏衢に耀き、慈雲は朽宅を清む。得るところなく称えるべきもの、それはただ正覚のみであろう。
しかし、教えは西方より起こり、法は東夏に流れる。馬鳴、龍樹は瓊編を初めて闡き、羅什、道安は宝偈を承けて宣べた。関中の道俗は貝葉の文を伝えるが、江左の黎元は未だ蓮華の旨を極めていない。また、元魏は釈典に迷い、宇文は魔風を煽り、開皇の初めには暫く修建されたが、大業の末には急に分崩した。我が大唐が天下を有するに至って。
叡聖重光,文思御曆,吞沙靜㜸,練石稱神,巢燧執鞭,羲農擁篲。懸法王之鏡,轉梵帝之輪,被正朔於蟠桃,混車書於細柳。三藏沙門菩提流志者,南天竺國淨行婆羅門種,姓迦葉氏也。年十有二,外道出家,事波羅奢羅,學聲明僧佉等論,并曆數呪術及陰陽等,年踰耳順遽乃心歸。知外法之乖違,悟釋教之深妙,隱居名岳積習頭陀,初就耶舍瞿沙三藏學經論,其後遍遊五天竺國。
叡知に満ちた聖なる光が再び輝き、文思が御代を治め、砂を呑んで乱れを静め、石を練って神と称えられ、有巣氏・燧人氏が鞭を執り、伏羲・神農が箒を抱いて仕えました。法王の鏡を掲げ、梵帝の輪を転じ、蟠桃の地に正朔を施し、細柳の地で車と文字を統一されました。
三蔵の沙門、菩提流志は、南インドの国より来たり、清らかな行いのバラモン種族に属し、迦葉氏を姓とします。十二歳の時、外道に出家し、波羅奢羅に師事して声明論・僧佉論などを学び、さらに暦数・呪術・陰陽などを修めました。六十歳を過ぎて急に心を改め、外法の誤りを知り、釈迦の教えの深遠さを悟りました。名高い山に隠棲して頭陀行を積み、初めは耶舍瞿沙三蔵に経論を学び、その後、五インドの国々を遍歴しました。
高宗天皇大帝聞其遠譽、挹其道風,永淳二年遣使迎接。
高宗天皇大帝はその遠くに響く名声を聞き、その道風を慕い、永淳二年に使者を遣わして迎えにやらせた。
天后聖帝,應乾司契,當宇披圖,令住東都居福先寺,譯《佛境界》、《寶雨》、《花嚴》等經一十一部。
天后聖帝は、天意に応じて契約を司り、天下を統治し地図を広げ、東都に住まわせ福先寺にて『仏境界経』『宝雨経』『華厳経』など十一部の経典を翻訳させた。
中宗孝和皇帝,循機履運,配永登樞。神龍二年令住京下,於崇福寺翻譯此經。俄屬靈祐虧徵,綿區集禍。
中宗孝和皇帝は、機に従い運を歩み、永遠に枢軸に登られました。神龍二年(706年)、京の都に住まわせ、崇福寺でこの経典を翻訳させました。やがて霊祐が衰え、天下に禍が集まりました。
喬岳之仙長往,茂陵之駕不還。朕以庸虛,謬膺丕構,敬遵前旨,勗就斯編。法師尋繹故文、發揮新句,炎涼不懈、曉夕忘疲,舊翻新翻凡有四十九會,總其部帙一百二十卷成,以先天二年六月八日畢功進內。法師戒珠在握、慧炬明心,為法門之棟梁,啟僧徒之耳目。伏願上資七廟八百之祚長延,下及萬方億兆之甿恒逸,遠邇寧謐、朝野歡娛,致澆俗於淳源,歸迷生於壽域。暫乘紫機之暇,聊題緗帙之前。所有會名,具於其目。云爾。
高き山の仙人は長く去り、茂陵の御輿は帰らぬ。朕は凡庸な身ながら、大任を誤って受け、先のご意志を敬い従い、この編纂を励み成し遂げた。法師は古い経文を探り、新たな言葉を展開し、寒暑を厭わず、昼夜を忘れて疲れを知らず、旧訳と新訳合わせて四十九の会、総部数は百二十巻を成し、先天二年六月八日に完成して朝廷に献上した。法師は戒律の珠を手に握り、智慧の灯火を心に明らかにし、仏法の門の棟梁として、僧侶たちの耳目を啓かれた。願わくは、上は七廟の八百年の御運を助け長く延び、下は万方の億兆の民を及ぼして常に安らぎ、遠近共に寧らかで、朝廷も民間も歓びに満ち、薄俗を淳源に至らしめ、迷える衆生を寿域に帰さんことを。紫の機務の暇に乗じ、暫く絹の表紙の前に記す。すべての会の名は、その目次に詳しく記す。かくの如し。