菩薩降身品第二
第二品 菩薩の降誕
「於是能仁菩薩,化乘白象,來就母胎。用四月八日,夫人沐浴,塗香著新衣畢,小如安身,夢見空中有乘白象,光明悉照天下,彈琴鼓樂,絃歌之聲,散花燒香,來詣我上,忽然不現。夫人驚寤,王即問曰:『何故驚動?』夫人言:『向於夢中,見乘白象者,空中飛來,彈琴鼓樂,散花燒香,來在我上,忽不復現,是以驚覺。』王意恐懼心為不樂,便召相師隨若那,占其所夢。相師言:『此夢者,是王福慶,聖神降胎,故有是夢。生子處家,當為轉輪飛行皇帝;出家學道,當得作佛,度脫十方。』王意歡喜。於是夫人,身意和雅,而說偈言:
そこで、慈愛に満ちた菩薩が白い象となって母の胎内に入った。四月八日のことである。夫人が沐浴し、香油を塗り新しい衣を着て、身を安らかに横たえた時、夢の中で、空に白い象に乗った者が、その光明で世界を照らし、琴を弾き太鼓や楽器を奏で、歌や弦の音が響き、花を散らし香を焚きながら、自分のもとに来るのを見た。すると、突然その姿は消えた。夫人は驚いて目覚めた。王が尋ねた。「どうして驚かれたのか?」夫人は言った。「先ほどの夢の中で、白い象に乗った者が空から飛んできて、琴を弾き太鼓や楽器を奏で、花を散らし香を焚きながら、私の上に来たかと思うと、突然消えてしまいました。それで驚いて目覚めたのです。」王は不安になり心が晴れず、すぐに占い師の随若那を呼び、その夢を占わせた。占い師は言った。「この夢は、王様の福徳の証しです。聖なるお方が胎内に宿られたから、このような夢を見られたのです。お子様は家庭におれば、世界を治める転輪聖王となり、出家して道を学べば、仏となってすべての人々を救われるでしょう。」王は大いに喜んだ。夫人もまた心身共に穏やかで優しく、次のように偈を唱えた。
「『今我所懷胎, 必是摩訶薩,
婬邪嫉恚止, 身心清淨安。
心常樂布施, 持戒忍精進,
定意入三昧, 智慧廣度人。
觀察大王身, 敬如父以兄,
瞻愍人民類, 亦如己赤子。
疾病醫藥療, 飢寒施衣食,
憐貧敬尊老, 樂令生老滅。
諸在獄閉繫, 毒苦愁怖惱,
願王加大慈, 一時赦罪過。
今我不欲聞, 世俗音樂聲,
志趣山林宴, 清淨寂默定。』
「今、私が宿している子は、 必ずや大いなる聖者(摩訶薩)である。 邪な欲や嫉み、怒りは止み、 心と体は清らかで安らかだ。
心は常に施しを喜び、 戒を守り、忍耐と精進に励み、 心を定めて三昧に入り、 智慧で人々を広く導く。
大王のお姿を観察すれば、 父や兄のように敬い、 人々の民を慈しみ、 自らの子のように思う。
病には薬をもって治療し、 飢えや寒さには衣服と食を施し、 貧しい者を憐れみ、年長者を敬い、 生と老いの苦しみが滅びるのを願う。
牢獄に閉じ込められた者たち、 毒や苦しみ、憂いや恐れに悩む者たちに、 大王が大いなる慈しみをもって、 一度に罪を赦してくださいますように。
今、私は望まない、 世俗の音楽の声を。 志は山林の静けさに向かい、 清らかに沈黙し、瞑想に定まりたい。」
「於是粟散諸小國王,聞大王夫人有娠,皆來朝賀,各以金銀珍寶衣被花香,敬心奉貢稱吉,無量夫人,舉手攘之,不欲勞煩。自夫人懷妊,天獻眾味,補益精氣,自然飽滿,不復饗王厨。十月已滿太子身成,到四月七日,夫人出遊,過流民樹下,眾花開化、明星出時,夫人攀樹枝,便從右脇生墮地。行七步,舉手而言:『天上天下,唯我為尊。三界皆苦,吾當安之。』應時天地大動,三千大千剎土莫不大明。釋梵四王與其官屬,諸龍、鬼神、閱叉、揵陀羅、阿須倫,皆來侍衛。有龍王兄弟,一名迦羅,二名欝迦羅,左雨溫水,右雨冷泉,釋梵摩持天衣裹之,天雨花香,彈琴鼓樂,熏香燒香,擣香澤香,虛空側塞。夫人抱太子,乘交龍車,幢幡伎樂,導從還宮。
さて、散らばる多くの小国の王たちは、大王の夫人が身ごもったと聞き、皆こぞって参内し祝いを述べた。それぞれ金銀や珍宝、衣服、花や香りを真心込めて献上し、祝福のことばを尽くした。しかし夫人は手を上げてそれらを退け、煩わせることを望まれなかった。
夫人が身ごもってから、天は様々な味わいを授け、精気を補い満たした。自然と満ち足りて、もはや王の厨房の食事をいただく必要はなかった。十ヶ月が過ぎて太子の御身が整った。四月七日のこと、夫人が遊びに出かけ、流民の木の下を通りかかると、様々な花が咲き乱れ、明星が現れた。夫人が木の枝に手をかけると、たちまち右の脇の下から太子が生まれ、地面に下りた。
太子は七歩歩み、手を上げて言った。 「天上天下、唯我独尊。三界はすべて苦しみに満ちているが、私はそれを安らかにしよう。」
その瞬間、天地は大きく震動し、三千大千世界の国土はことごとく明るく照らされた。釈提桓因・梵天・四天王とその官属、諸々の龍・鬼神・夜叉・乾闥婆・阿修羅たちが皆来てお守りした。また竜王の兄弟がいた。一人は迦羅、もう一人は欝迦羅という。左からは温かい水を、右からは冷たい泉の水を注いだ。釈提桓因と梵天は天の衣をとって太子を包み、天からは花や香りが降り注ぎ、琴や太鼓の音楽が鳴り響き、薫香・焼香・擣香・沢香が虚空を満たした。
夫人は太子を抱き、交竜の車に乗って、幢幡を掲げ、音楽を奏でる導きの列と共に宮殿へ帰られた。
「王聞太子生,心懷喜躍,即與大眾、百官群臣、梵志、居士長者、相師,俱出往迎。王馬足觸地,五百伏藏,一時發出,海行興利,於時集至梵志相師,普稱萬歲,即名太子,號為悉達(漢言財吉)。王見釋梵四王、諸天龍神彌滿空中,敬心肅然,不識下馬禮太子。時未至城門,路側神廟一國所宗,梵志相師咸言:『宜將太子禮拜神像。』即抱入廟,諸神形像,皆悉顛覆。梵志相師、一切大眾皆言:『太子實神實妙,威德感化,天神歸命。』咸稱太子,號天中天。
王は太子が生まれたと聞き、心は喜びと躍動に満ちあふれた。すぐに大衆、百官の群臣、バラモン、在家の長者、占い師たちを引き連れて、共に出向いて太子を迎えた。王の馬の蹄が大地に触れるや否や、五百もの埋蔵された財宝が一時に現れ出た。また、海の行商は大いに利益を得た。この時に至り、バラモンや占い師たちは集まって、一斉に「万歳」と叫び、すぐに太子の名を「シッダールタ(サンスクリット語で財吉の意)」と名付けた。王は、帝釈天や梵天、四天王、そして多くの天龍神々が虚空に満ちているのを見て、敬虔な心で厳かな気持ちとなり、馬から下りて太子に礼を尽くすことも忘れてしまった。
まだ城門に至らない道すがら、一国で崇拝の対象となっている路傍の神廟があった。バラモンや占い師たちは皆、「太子を神像に礼拝させるのがよいでしょう」と言った。そこで王は太子を抱いて廟に入ると、すべての神像が皆、倒れてしまった。バラモンや占い師、すべての大衆は言った。「太子は実に神妙であり、その威徳は感応を起こし、天の神々すらも帰命いたします。」皆が太子を称えて、「天中の天」という称号を贈った。
「於是還宮,天降瑞應,三十有二:一者、地為大動坵墟皆平,二者、道巷自淨臭處更香,三者、國界枯樹皆生花葉,四者、苑園自然生奇甘果,五者、陸地生蓮花大如車輪,六者、地中伏藏悉自發出,七者、中藏寶物開現精明,八者、篋笥衣被被在柁架,九者、眾川萬流停住澄清,十者、風霽雲除空中清明,十一者、天為四面細雨澤香,十二者、明月神珠懸於殿堂,十三者、宮中火燭為不復用,十四者、日月星辰皆住不行,十五、沸星下現侍太子生,十六、天梵寶蓋彌覆宮上,十七、八方之神奉寶來獻,十八、天百味飯自然在前,十九、寶甕萬口懸盛甘露,二十、天神牽七寶交露車至,二十一、五百白象子自然羅在殿前,二十二、五百白師子子從雪山出羅住城門,二十三、天諸婇女現伎女肩上,二十四、諸龍王女繞宮而住,二十五、天萬玉女把孔雀拂現宮牆上,二十六、天諸婇女持金瓶盛香汁列住空中侍,二十七、天樂皆下同時俱作,二十八、地獄皆休毒痛不行,二十九、毒蟲隱伏吉鳥翔鳴,三十、漁獵怨惡一時慈心,三十一、境內孕婦生者悉男,聾盲瘖瘂、癃殘百疾,皆悉除愈,三十二、樹神人現低首禮侍。當此之時,十六大國,莫不雅奇歎未曾有。
そこで宮殿に戻ると、天が瑞兆を授けた。その数、三十有二。
一、大地が大いに震動し、丘や谷がすべて平らになった。 二、道や巷が自然に清らかになり、汚れた場所が香りに変わった。 三、国土の枯れ木がすべて花や葉を生じた。 四、苑園に自然と珍しい甘い果実が生じた。 五、陸地に車輪ほどの大きさの蓮の花が咲いた。 六、地中に隠された宝がすべて自ら現れ出た。 七、蔵の中の宝物が輝きを放ち、明らかに現れた。 八、箱や衣類が棚に掛けられ、整然と並んだ。 九、数多くの川や流れが止まり、水が澄み渡った。 十、風がやみ、雲が晴れて、空は清らかになった。 十一、天から四方に細かな雨が降り、潤いと香りをもたらした。 十二、明月の神珠が殿堂に掲げられた。 十三、宮中の灯火がもはや用いられなくなった。 十四、太陽、月、星々がその場に留まり、動かなくなった。 十五、沸星が現れ、太子の降誕をお仕えした。 十六、天の梵宝の蓋が宮殿の上を覆い広げた。 十七、八方の神々が宝を捧げてやって来た。 十八、天の百味の飯が自然と前に現れた。 十九、宝の甕が万口、甘露を満たして吊るされた。 二十、天の神々が七宝の交露車を引いて到来した。 二十一、五百頭の白い象の子が自然と殿前に並んだ。 二十二、五百頭の白い獅子の子が雪山から出て来て、城門に並んで留まった。 二十三、天の多くの天女が、伎女の肩の上に現れた。 二十四、諸々の龍王の娘たちが宮殿を巡って留まった。 二十五、天の一万の玉女が、孔雀の払子を手に宮殿の壁の上に現れた。 二十六、天の多くの天女が金の瓶に香りの水を入れて、空中に列をなしてお仕えした。 二十七、天の楽がすべて降りてきて、同時に奏でられた。 二十八、地獄の苦しみがすべて止み、毒の痛みがなくなった。 二十九、毒虫は隠れ潜み、吉鳥が鳴き翔けた。 三十、漁猟や怨み争いが一時に慈しみの心へと変わった。 三十一、国内の妊婦が産む子はすべて男児となり、聾・盲・唖・瘖・瘂・癃・残・すべての病が癒え除かれた。 三十二、樹の神が人の姿で現れ、頭を垂れて礼拝しお仕えした。
この時、十六の大国も、その奇跡を珍しがらない者はなく、「このようなことは未曾有のことだ」と嘆賞した。
「於是香山有道士名阿夷,中夜覺天地大動,觀見光明暉赫非常,山中有花,名優曇鉢,花中自然生師子王,墮地便行七步,舉頭而吼,面四十里,其中飛鳥走獸、蜎飛蚑行蠕動之類,莫不懾伏。阿夷念言:『世間有佛,應現此瑞。今世五濁盛惡,何故有此吉祥瑞應?』天曉飛到迦維衛國,未及國城,四十里外,忽然落地。心甚驚喜:『此必有佛,於我無疑。』步詣宮門,門監白王:『阿夷在門。』王愕然曰:『阿夷常飛,今者何故在門求通?』王即出禮拜迎,澡洗沐浴,施新衣服,問訊:『今日臨顧,勞屈尊聖!』阿夷答言:『聞大王夫人生太子,故來瞻省。』勅其內人,抱太子出。侍女白言:『太子疲懈,始得安眠。』阿夷喜悅,便說偈言:
そこで香山に阿夷という道士がいた。真夜中に天地が大きく揺れ動くのを感じ、異常なほど輝く光を見た。山の中には優曇鉢という花があり、その花の中から自然に獅子の王が生まれ、地に落ちるとすぐに七歩歩き、頭を上げて吼えた。その声は四十里にわたって響き、その範囲にいた飛鳥や獣、這う虫や動くものの類は、すべて恐れおののいて服従した。
阿夷は思った。「世の中に仏が出現されるとき、このような瑞兆が現れるという。今の世は五濁がはなはだしく悪いのに、なぜこのような吉祥の瑞応があるのだろうか?」
夜が明けると、彼は迦維衛国へ飛んでいった。国都まで四十里のところで、突然地面に降り立った。心は驚きと喜びに満ちていた。「これは必ず仏がおられるに違いない。疑いの余地はない。」そう思って、歩いて宮殿の門まで行った。
門番が王に告げた。「阿夷が門口におります。」王は驚いて言った。「阿夷はいつも飛んでくるのに、今日はどうして門口で取り次ぎを求めておられるのだろうか?」王はすぐに出て行って礼拝し、迎え入れ、沐浴させ、新しい衣を施し、こう問いかけた。「本日はお越しくださいまして、まことにご苦労をおかけいたします。」
阿夷は答えた。「大王の奥方が太子をお生みになられたと聞き、お目にかかりたく参上したのです。」王は后に命じて太子を出させようとしたが、侍女が申し出た。「太子はお疲れで、ようやくお眠りにつかれました。」阿夷は喜び、偈を唱えた。
「『大雄常自覺, 覺諸不覺者,
歷劫無睡臥, 豈當眠寐乎?』
「大いなる勇者は常に目覚めている。 目覚めない者たちを目覚めさせ、 長い年月、眠りもせず休みもしない。 どうしてそこにまどろむことがあろうか。」
「於是侍女,抱太子出,欲以太子向阿夷禮。阿夷便驚起,前禮太子足。國王及群臣,見國師阿夷敬禮太子,心便悚然,益知至尊,即頭面禮太子足。阿夷猛力,迴伏百壯士,方抱太子,筋骨委震,見奇相三十二、八十種好,身如金剛,殊妙難量,悉如祕讖,必當成佛,於我無疑,淚下哽咽悲不能言。時王惶怖請問:『太子有不祥乎?吉凶願告,幸勿有難。』阿夷自抑制,即便說偈言:
そこで侍女は太子を抱き出し、阿夷(あい)に礼を取らせようとした。ところが阿夷は驚いて立ち上がり、進み出て太子の足を礼拝した。国王も群臣も、国師である阿夷が太子を敬い礼拝するのを見て、心に恐れ敬う思いが湧き、いよいよその尊さを知り、自らも太子の足に頭を伏せて礼拝した。阿夷は大力の持ち主で、百人の屈強な男をひれ伏させる力があったが、太子を抱き抱えると、骨も筋も震えわななき、三十二相、八十種好という優れた相を見て、その身は金剛の如く、並外れて妙なること、はかり知れず、全てが秘められた予言の通りであり、必ずや仏となることは私にとって疑いないと知り、涙を流し、声を詰まらせ、悲しみのあまり言葉も出なかった。その時、王は恐れおののいて申し上げた。「太子に何か不吉なことでもあるのでしょうか。吉凶をお告げください。どうか隠さないでください。」阿夷は自らを抑え、すぐに偈(げ)を説いた。
「『今生大聖人, 除世諸災患,
傷我自無福, 七日當命終。
不見神變化, 說法雨世間,
今與太子別, 是故自悲泣。』
太子舉手言: 『五道十方人,
吾當盡教化, 皆令得其所。
本我意所願, 當度薩和薩,
一人不得道, 吾不入泥洹。』
「今世に大聖人がお生まれになり、 世の中のあらゆる災いを取り除いてくださるというのに、 私には福徳がなく、七日後に命を終える定めです。 神々の御業も、人々に法の雨を降り注ぐ説法も、 もはや見ることはかないません。 今、太子とお別れしなければならないからこそ、 私はこのように涙するのです。」 太子は手を上げておっしゃいました。 「五道(ごどう)*の世界に生きる、あらゆる人々を、 私はすべて教え導き、それぞれの安らぎの境地に至らせよう。 そもそも、これが私の本願であり、すべての人々を救いたいのだ。 たとえ一人でも悟りを得ない者がいるなら、 私は涅槃に入ることはない。」
「於是阿夷喜,重禮太子足。白淨王怖止歡喜,而說偈言:
そこで阿夷は喜び、重ねて太子の足を礼拝した。浄飯王は恐怖が収まり、喜び、偈を説いて言った。
「『太子有何相? 當何治於世?
願為一一說, 諸相有何福?』
「太子にはどのような相があるのですか? この世でどのようにお治めになるのですか? どうか一つ一つお教えください。 それぞれの相には、どのような福徳があるのですか?」
「時阿夷以偈答王言:
時に阿夷は、王に偈で答えた。
「『今觀太子身, 金色堅固志,
無上金剛杵, 舂破婬欲山。
大人相滿具, 足下安平趾,
居國常平治, 出家等正覺。
手足輪相現, 其好有千輻,
是故轉法輪, 得佛三界尊。
鹿腨而龍髀, 隱相陰馬藏,
觀者無有厭, 是故法清淨。
纖長手臂指, 軟掌鞔中里,
是故法久長, 千歲在世教。
皮毛柔軟細, 右旋不受塵,
金色鉤鎖骨, 是故伏外道。
方身師子臆, 旋轉不阿曲,
平住手過膝, 是故一切禮。
身有七處滿, 千子力當敵,
菩薩宿作行, 是故無怨惡。
口含四十齒, 方白而齊平,
甘露法率眾, 是故有七寶。
頰車如師子, 四牙萬字現,
佛德現天下, 是故豐三世。
味味次第味, 所食識其味,
是以設法味, 施與於一切。
廣舌如蓮華, 出口覆其面,
是故種種音, 受者如甘露。
語聲哀鸞音, 誦經過梵天,
是故說法時, 身安意得定。
眼相紺青色, 世世慈心觀,
是故天人類, 視佛無有厭。
頂特生肉髻, 髮色紺琉璃,
欲度一切故, 是以法隆盛。
面光如滿月, 色像花初開,
是以眉間毫, 白淨如明珠。』
「さあ、この太子の御姿を見よ。 その身は金色にして、意志は固い。 無上の金剛の杵をもって、 情欲の山を打ち砕く。
大人の相をすべて備え、 足の裏は平らで安らかだ。 国にいれば常に平和を治め、 出家すれば等正覚を得る。
手足には輪相が現れ、 その美しさに千の輻がある。 ゆえに法輪を転じ、 仏となって三界の尊となられる。
脚は鹿のよう、ももは龍のよう、 隠れた相は陰馬のごとく蔵される。 見る者は飽くことがなく、 ゆえに法は清らかである。
指は細長く、手のひらは柔らかく、 網の目が中に覆いかぶさる。 ゆえに法は長く続き、 千年もの間、教えは世にある。
毛は柔らかく細やかで、 右に巻いて塵を受けない。 金色の鉤鎖の骨を持ち、 ゆえに外道を従える。
体は方形で獅子の胸のよう、 回転も曲がることがない。 立ったまま手が膝を越え、 ゆえにすべての者が礼拝する。
身には七か所が満ち足り、 千人の子が力を競う力を持つ。 菩薩は過去の行いに基づき、 ゆえに怨みや悪はない。
口には四十の歯があり、 四角く白く、整って並ぶ。 甘露の法で衆を導き、 ゆえに七宝がある。
頬は獅子のようで、 四本の牙には万字が現れる。 仏の徳は天下に現れ、 ゆえに三世は豊かである。
味わいごとに順序よく味わい、 食べたものの味を知る。 ゆえに法の味を設け、 すべての者に施す。
広い舌は蓮の花のようで、 口を出れば顔を覆う。 ゆえに種々の音声が、 受ける者には甘露のごとし。
語る声は哀れな鸞の音のようで、 経を唱えれば梵天にまで届く。 ゆえに説法の時、 身は安らかで心は定まる。
眼の相は紺青色で、 世々慈しみの心で見る。 ゆえに天人の類は、 仏を見て飽きることがない。
頭には特に肉髻が生じ、 髪の色は紺琉璃のよう。 すべてを救おうと願うゆえ、 法は隆盛する。
顔の光は満月のようで、 色は花が初めて開くよう。 ゆえに眉間の白毫は、 白く清らかで明珠のごとし。」
「於是王深知其能相,為起四時殿,春、秋、冬、夏。各自異處,於其殿前列種甘果樹,樹間七寶浴池,池中奇花,色色各異,譬如天花,水類之鳥,數十百種,宮城牢固,七寶樓觀懸鈴幡幢,門戶開閉,聲聞四十里,選五百妓女,擇取溫雅禮儀備者,供養娛樂,育養太子。太子生日,國中八萬四千長者,生子悉男,八萬四千廐馬生駒,其一特異,毛色絕白,髦𮤅貫珠,以是之故,名為騫特。廐生白象,八萬四千,其一白象,七肢平跱,髦尾貫珠,口有六牙,是故名為白象之寶。白馬給乘,奴名車匿。
そこで王は、その子の非凡な才能を深く見極め、四季それぞれに応じた四つの殿舎を建造させました。春、秋、冬、夏、それぞれ別々の場所に建てられ、その殿舎の前には様々な美味しい果樹が植えられ、木々の間には七宝で飾られた浴池が設けられました。池の中には珍しい花々が咲き誇り、その色とりどりな様子はまるで天の花のようでした。また、何十、何百という種類の水鳥が群れていました。宮殿と城壁は堅固に築かれ、七宝で飾られた楼閣には鈴や旗、幢幡が吊るされ、門や戸の開け閉めの音は四十里先まで聞こえました。そして、五百人の美しい女官を選び、その中でも特に温雅で礼儀作法が整った者だけを選んで、太子を養育し、楽しませ、供養させました。
太子が誕生した日、国中の八万四千人の長者たちに男子が生まれ、八万四千の厩で馬の子が生まれました。その中でも一頭の馬だけが特別に優れており、毛の色は真っ白で、たてがみや尾には宝玉が貫き通されていました。それゆえに、その馬は「騫特(けんとく)」と名付けられました。さらに、厩からは八万四千頭の白い象が生まれ、そのうちの一頭の象は七つの肢が均整が取れてしっかりと立ち、たてがみと尾には宝玉が飾られ、口には六本の牙がありました。このことから、この象は「白象の宝」と名付けられました。白馬は太子の乗り物として与えられ、召使いの名は「車匿(しゃのく)」といいました。
「太子生七日,其母命終,以懷天師功德大故,生忉利天,封受自然。太子在宮,不樂憒閙,志思閑燕。王問侍女:『太子樂乎?』侍女白言:『供養伎樂,不失時節,觀省太子,不以歡樂。』王用愁憂,即召群臣:『阿夷相言,必成佛道。以何方便,使太子留,令無道志。』有一臣言:『唯教書䟽,用繫志意。』即與其僕五百人俱,共詣師門。師聞太子至,即出拜迎。太子問言:『此為何人?』臣言:『是國教書師也。』太子問言:『閻浮提書凡有六十四種,即數書名,今用何書,以相教示?』梵志惶怖,答太子言:『六十四種,己所未聞,唯持二書,以教人民。即時歸命,願赦不及。』
太子が生まれて七日目に、その母は亡くなられました。天師としての功徳が大いなるゆえに、忉利天に生まれ、自然のままに福楽を受けたのです。太子は宮中にあっても、騒がしいことを好まず、静かに過ごすことを願っておられました。王が侍女に問いました。「太子は楽しそうか?」侍女は申し上げました。「供養や歌舞音曲を時に欠かさずに差し上げておりますが、太子のお姿を拝見するに、喜んでおられる様子はございません。」王はこれを聞いて憂い、ただちに群臣を召して言いました。「阿夷が相して言うには、必ずや仏道を成し遂げるという。どのような方便をもってすれば、太子を留め、道を志す心を起こさせずにおくことができるか。」ある臣が申しました。「ただ文字の書き方を教えて、その心をそれに留めさせるのがよろしいでしょう。」そこで、太子は五百人の従者とともに、師の門を訪れました。師は太子が来られたと聞き、すぐに出向いてお迎えしました。太子が尋ねました。「この人は何をする方か。」臣が申しました。「国で文字を教える師です。」太子が言いました。「閻浮提にある書物は、みなで六十四種ある。その名を挙げるが、今はどの書物をもって教えようとするのか。」梵志は恐れおののき、太子に申し上げました。「六十四種など、私は聞いたこともございません。私はただ二つの書物だけを携えて、人民に教えております。」そしてすぐに帰依し、「至らぬ点をお許しください」と願いました。