試藝品第三
第3章 試練
「於是太子,與諸官屬,即迴還宮。至年十七,妙才益顯,晝夜憂思,未曾歡樂,常念出家。王問其僕:『太子云何?』其僕答言:『太子日日憂悴,未甞歡樂。』王復愁憂召諸群臣:『太子憂思,今當如何?』有一臣言:『令習兵馬。』或言:『當習手搏射御。』或言:『當令案行國界,使觀施為,散諸意思。』有一臣言:『太子已大,宜當娶妻以迴其志。』王為太子,採擇名女,無可意者。有小國王,名須波佛(漢言善覺),有女名裘夷,端正皎潔天下少雙,八國諸王,皆為子求,悉不與之。白淨王聞即召善覺,而告之曰:『吾為太子,娉取卿女。』善覺答言:『今女有母,及諸群臣國師梵志,當卜所宜,別自啟白。』
「善覺歸國,愁憂不樂,絕不飲食。女即問王:『體力不安?何故不樂?』父言:『坐汝令吾憂耳。』女言:『云何為我?』父言:『聞諸國王來求索汝,吾皆不許。今白淨王,為太子求汝,若不許者,恐見誅罰,適欲與者,諸國怨結。以是之故,令吾憂慼!』女言:『願父安意,此事易耳。我却七日,自處出門。』善覺聽之,表白淨王:『女即七日,自出求處國中勇武技術最勝者,爾乃為之。』白淨王念:『太子處宮,未曾所習,今欲試藝,當如何乎?』
父である善覚が国に帰ると、憂いに沈み、何も食べようとしませんでした。そこで娘は父王に尋ねました。「お体の具合がお悪いのですか?なぜそんなに楽しまれないのですか?」王は答えました。「お前のことで、私が憂いているのだ。」娘は言いました。「どうして私のことが原因なのですか?」父王は言いました。「諸国の王たちがお前を妃にと求めてきたが、私は皆断ってきた。ところが今、白浄王が太子のために求めてきた。もし断れば、おそらく罰せられるだろう。かといって申し出を受け入れるなら、他国の王たちとの間で害悪が生じる。そうしたわけで、私は憂いているのだ。」娘は言いました。「父王、どうか御安心ください。これはたやすいことです。七日間お待ちください。私が自ら家を出てまいります。」
善覚はこの言葉を聞き入れ、白浄王に伝えました。「我が娘は、七日後に、自ら進んで国の中から武勇と技芸に最も優れた者を選び、その者に嫁ぐと言っています。」白浄王は考えました。「太子は宮殿にこもりきりで、まだ何も武芸を習っていない。今、技芸を試すと言われては、どうしたらよいものか。」
「至其時日,裘夷從五百侍女,詣國門上,諸國術士,普皆雲集,觀最妙技禮樂備者,我乃應之。王勅群臣,當出戲場觀諸技術。王語優陀:『汝告太子:「為爾娶妻,當現奇藝。」』優陀受教往告太子:『王為娶妻,令試禮樂,宜就戲場。』太子即與優陀、難陀、調達、阿難等五百人,執持禮樂射藝之具,當出城門,安置一象,當其城門,決有力者。調達先出,見象塞門,扠之一拳,應時即死。難陀尋至,牽著道側。太子後來,問其僕曰:『誰抂殺象?』答言:『調達殺之!』『誰復移者?』答言:『難陀!』菩薩慈仁,徐前接象,舉擲城外,象即還穌更生如故。
その日が来ると、裘夷(くい)は五百人の侍女を従えて国の門に至った。国中の技術者たちは皆集まり、最も優れた技芸や礼楽を備えた者が私の夫となる、と彼女は言った。王は群臣に命じて、遊戯場に出て諸々の技術を見物するよう告げた。王は優陀(うだ)に言った。「太子に告げよ。『妻を娶るため、その奇跡の技を示せ』と。」優陀は教えを受け、太子に告げた。「王があなたに妻を娶らせようと、礼楽の試験を受けさせます。どうか遊戯場にお出かけください。」太子は優陀、難陀、調達、阿難ら五百人と共に、礼楽や弓術の道具を携えて城門を出ようとした。そこに一頭の象が置かれ、城門を塞いでいた。力ある者を決するためである。調達が先に出ようとし、象が門を塞いでいるのを見ると、拳で一撃し、即座に息絶えさせた。次に難陀が来て、象を道端に引き寄せた。太子が後に到着し、従者に問うた。「誰が象を殺したのか。」答えて言った。「調達が殺しました。」「では誰がそれを動かしたのか。」答えて言った。「難陀です。」菩薩は慈しみ深く、ゆっくりと進み出て象を抱え上げ、城外に投げ出した。すると象はすぐに蘇り、以前のように生き返ったのである。
「調達到場,撲眾力士,莫能當者,諸名勇力,皆為摧辱。王問其僕:『誰為勝者?』答言:『調達。』王告難陀:『汝與調達二人相撲。』難陀受教即撲,調達頓躃悶絕,以水灌之,有頃乃穌。王復問言:『誰為勝者?』其僕答言:『難陀得勝。』王告難陀:『與太子決。』難陀白王:『兄如須彌,難陀如芥子,實非其類。』拜謝而退。
調達が競技場に立ち入り、大勢の力士たちに立ち向かいましたが、彼に敵う者はいませんでした。名うての勇者たちも皆、打ち負かされ、辱めを受けました。 王はその従者に尋ねました。「誰が勝ったのか?」 従者は答えました。「調達でございます。」 王は難陀に告げました。「汝は調達と二人で相撲をとれ。」 難陀は王命を受け、すぐに調達と組み合いました。難陀は調達を一瞬で打ち倒し、悶絶させました。水をかけてしばらくすると、ようやく息を吹き返しました。 王は再び尋ねました。「誰が勝ったのか?」 従者は答えました。「難陀が勝ちました。」 王は難陀に告げました。「太子と勝負を決めよ。」 難陀は王に申し上げました。「兄上は須弥山のごとく、私は芥子粒のようなものです。とても同列に語ることはできません。」そう言って、拝礼して辞しました。
「復以射決,先安鐵鼓,十里置一,至于七鼓,諸名射者,其箭力勢,不及一鼓,調達放發,徹一中二,難陀徹二,箭貫三鼓,其餘藝士,無能及者。太子前射,挽弓皆折,無可手者。告其僕曰:『吾先祖有弓,今在天廟,汝取持來。』即往取弓,二人乃勝,令與眾人無能舉者。太子張弓,弓聲如雷。傳與大眾,莫能引者。太子攬牽彈弓之聲,聞四十里,彎弓放箭,徹過七鼓,再發穿鼓入地,泉水涌出,三發貫鼓著鐵圍山,一切眾會歎未曾有。諸來決藝,悉皆受折慚辱而去。
次に、射術の競技が行われました。まず鉄の太鼓を立て、十里ごとに一つずつ、七つの太鼓を並べました。世に名高い射手たちも、その矢の威力は一つの太鼓すら貫くことができませんでした。調達(デーヴァダッタ)は放った矢が一つ目の太鼓を貫き、二つ目に当たりました。難陀(ナンダ)は二つ目の太鼓を貫き、矢は三つ目の太鼓に突き刺さりました。他の優れた芸人たちも、これに及ぶ者は誰もいませんでした。
そこで太子(仏陀)が前に出て矢を射ようとしましたが、弓を引くと皆折れてしまい、手に合うものはありませんでした。そこで太子は従者に言いました。「我が先祖の弓が、今、天の廟にある。それを取って来なさい。」従者がすぐに弓を取りに行きましたが、それを運ぶには二人がかりで、他の者たちは誰一人として持ち上げることすらできませんでした。太子がその弓を引き絞ると、その音は雷のようでした。弓を皆に回しても、誰も引くことはできませんでした。太子が弓を弾く音は四十里(約百六十キロメートル)の彼方まで聞こえ、弓を引き絞って放った矢は七つの太鼓を貫き、さらに二度目の矢は太鼓を貫いて地中に突き刺さり、そこから泉が湧き出ました。三度目の矢は太鼓を貫いて鉄囲山に突き立ちました。集まった全ての人々は、これまでにないことであったと感嘆しました。こうして競技に集まった者たちは皆、負けて恥辱を受け、退散していきました。
「復有力人王,最於後來,壯健非常勇猛絕世,謂調達、難陀為不足擊,當與太子共決技耳。被辱去者,審呼能報,踊躍歡喜,語力人王:『卿之雄傑世無當者,決力取勝,必自如意。』皆隨從還,觀與太子決於勝負。調達、難陀奮其威武,便前欲擊。太子止言:『此非為人,大力魔王耳。卿不能制,必受其辱。吾自當之。』父王聞此,念太子幼,深為愁怖;諸來觀者,謂勝太子。時力人王,蹹地勇起,奮臂舉手,前撮太子,太子應時,接撲著地,地為大動。眾會重辱,散去忽滅。太子殊勝,椎鍾擊鼓,彈琴歌頌,騎乘還宮。
ある力持ちの王が、最後にして最も壮健で、その勇ましさは比類なく、調達や難陀などは相手にならないと語り、太子と技を競おうとした。侮辱されて去った者たちは、本当に復讐できると確信し、喜び勇んでこの力持ちの王に言った。「あなたの雄々しさは、世に並ぶ者はいない。力比べで勝つのは間違いなく、思い通りになるだろう。」彼らは皆、王に従い、太子との勝負を見に戻った。
調達と難陀はその武勇を奮い、前に出て打とうとした。太子はそれを制して言った。「これは人間ではない。大力の魔王だ。あなたたちには敵わない。必ず辱めを受けるだろう。私が自ら相手をする。」父王はこれを聞き、太子が幼いことを案じ、深く憂い恐れた。見物に来た人々も、太子が勝つだろうと思った。
その時、力持ちの王が地を踏み鳴らして勇み立ち、腕を奮い、手を挙げて太子を捕まえようとした。太子は即座に彼を受け止め、地面に打ち倒した。大地は大きく震動した。群衆は二度の辱めを受けて、散り散りに消え去った。太子の勝利は素晴らしく、鐘を打ち、太鼓を打ち鳴らし、琴を弾き、歌を歌い、馬に乗って宮殿に帰った。
「優陀語善覺言:『太子技藝,事事殊特。卿女裘夷,今為所在?』善覺答言:『從五百侍女在城門上。』優陀白太子言:『宜現奇特。』太子脫身珠瓔,欲遙擲之。優陀言:『眾女大多,今擲與誰?』太子言:『珠瓔著頸則是其人。』尋便擲珠,即著裘夷。一切眾女,皆稱:『妙哉!甚為奇特,世之希有。』於是善覺,嚴辦送女,詣太子宮,眾伎侍從,凡二萬人,晝夜娛樂,絕世之音。太子志意,不以為歡,常欲棄捨,靜修道業,濟度眾生。
優陀が善覚に言いました。「太子の技芸は、何事につけても際立って優れています。あなたの娘である裘夷は、今どこにいますか。」善覚は答えました。「五百人の侍女とともに城門の上にいます。」優陀は太子に申し上げました。「どうか奇特なことをお示しください。」太子は身につけた珠の瓔珞を外し、遠くへ投げようとしました。優陀が言いました。「女たちが大勢いますが、今それを誰に投げ与えるのですか。」太子は言いました。「珠の瓔珞が首にかかった者こそ、その人です。」すぐに珠を投げると、そのまま裘夷の首にかかりました。すべての女たちは皆、称えました。「すばらしいことです。たいへん奇特で、世にも希有なことです。」そこで善覚は、娘を送り出す準備を整え、太子の宮殿へと向かわせました。多くの伎楽がお供し、総勢二万人が、昼も夜も楽しませ、世に絶えたる音を奏でました。太子の志は、それを喜びとはせず、常に捨て去り、静かに道業を修め、衆生を済度しようと願っていました。
「王問其僕:『太子迎妃以來,意志云何?』僕答王言:『憂思不樂,身體羸瘦,轉不如前。』王心愁憂,即召群臣:『太子不悅,當如之何?』諸臣議言:『宜復娉娶,增其伎樂。』儻能迴志,樂於世間,即復為娉妙女,一名眾稱味,二名常樂意。其一夫人者,二萬婇女,三夫人者,凡有六萬婇女,端正妙好,天女無異。王問裘夷:『太子今有六萬婇女,伎樂供養,太子寧樂乎?』答言:『太子夙夜專精志道,不思欲樂。』王聞憂慘,召諸群臣復共議言:『今供太子,盡世珍奇,而故專志未曾歡樂。必如阿夷言乎?』諸臣答言:『六萬婇女,極世之樂,不以為歡,宜使出遊觀於治政,以散道意。』
王はその僕に問いました。「太子は妃を迎えて以来、心のあり方はどうか。」僕は王に答えました。「憂いに沈み楽しむことがなく、身体は痩せ衰え、以前よりも良くありません。」王は心に愁い憂いて、すぐに群臣を召しました。「太子が喜ばないのは、どうしたらよいだろうか。」諸臣は議して言いました。「もう一度妻を迎えさせ、伎楽を増やすのがよいでしょう。もし心を翻して世間を楽しむことができれば。」そこで再び妙なる女を迎えました。一人は衆称味といい、二人目は常楽意といいます。その一人の夫人には二万の婇女があり、三人の夫人には合わせて六万の婇女がいて、端正で妙好なることは天女と異なりません。王は裘夷に問いました。「太子は今、六万の婇女と伎楽の供養を受けているが、太子は楽しんでいるか。」答えて言いました。「太子は朝も夜も専ら道に志を集中し、欲の楽しみを思いません。」王はこれを聞いて憂い悲しみ、諸々の群臣を召して再び共に議して言いました。「今、太子に供するものは世の珍奇を尽くしているのに、それでも専ら志を貫いて少しも歓楽しない。きっと阿夷の言った通りなのだろうか。」諸臣は答えました。「六万の婇女はこの世の極みの楽しみですが、それを歓びとしません。政を治める様子を見に外出させて、道への志を散らすのがよいでしょう。」
修行本起經卷上
修行本起経 巻上