修行本起經卷下
修行本起経 巻下
後漢西域三藏竺大力共康孟詳譯
後漢、西域の三蔵竺大力と康孟詳による共訳
遊觀品第三
遊観品 第三
「於是王告太子:『當行遊觀。』太子念言:『久在深宮,思欲出遊,審得所願。』王勅國中,太子當出,嚴整道巷,灑掃燒香,懸繒幡蓋,務令鮮潔。太子導從,千乘萬騎,始出東城門,時首陀會天,名難提和羅,欲令太子速疾出家,救濟十方三毒火然,願雨法水,以滅毒火。難提和羅,化作老人,踞於道傍,頭白齒落,皮緩面皺,肉消脊軁,支節萎曲,眼淚鼻涕,涎出相屬,上氣肩息,身色黧黑,頭手肬掉,軀體戰懾,惡露自出,坐臥其上。太子問言:『此為何人?』天神寤僕,僕言:『老人。』『何等為老?』曰:『夫老者,年耆根熟,形變色衰,氣微力竭,食不消化,骨節欲離,坐起須人,目𰩑耳聾,便旋即忘,言輙悲哀,餘命無幾,故謂之老。』太子歎曰:『人生於世,有此老患,愚人貪愛,何可樂者?物生於春,秋冬悴枯,老至如電,身安足恃。』即說偈言:
そこで王は太子に告げた。「そろそろ外出して見学してきなさい。」 太子は思った。「長く宮殿の奥に閉じこもっていた。そろそろ外に出て見たいと願っていたところだ。まさに望みが叶った。」 王は国中に命じた。太子が外出するので、道や路地を整え、掃き清めて香を焚き、絹の旗や天蓋を掲げ、必ず清らかで美しく整えよと。 太子の従者は、千台の車、万頭の馬に及び、ようやく東の城門を出た。その時、首陀会天の神である難提和羅が、太子が速やかに出家して、十方の三毒の燃える火を救済し、雨の法を降らせて毒火を消し止めることを願った。 難提和羅は老人に姿を変え、道端にうずくまっていた。頭は白く、歯は抜け落ち、皮膚はたるみ、顔は皺だらけで、肉は痩せ、背骨は曲がり、手足は萎えて曲がり、涙と鼻水、よだれが次々と流れ出ていた。呼吸は浅く肩で息をし、肌は黒ずみ、手足は震え、身体は震え、不浄なものは自然と漏れ出し、その上に座ったり横になっていた。 太子は尋ねた。「これは何という人か?」 天の神が御者の心に気づかせ、御者は言った。「老人です。」 「老いとは何か?」 「老いというのは、歳をとり、感覚器官が衰え、形が変わり、色が衰え、気力が弱まり、力が尽き、食べ物が消化できず、骨と節が離れそうになり、立ち上がったり座ったりするにも人の助けが必要で、目はかすみ、耳は聞こえず、すぐに忘れ、言葉を発する時は悲しみに満ち、残りの命はわずかです。だから老いと言うのです。」 太子は嘆いて言った。「人は世に生まれ、この老いの苦しみがあるのに、愚かな人は貪り愛して、何の楽しみがあるというのか。ものは春に生まれ、秋冬には枯れ朽ちる。老いは電光のように訪れ、体は何の頼りにもならない。」そして、次の偈を唱えた。 (偈文は原文のまま省略)
「『老則色衰, 病無光澤,
皮緩肌縮, 死命近促。
老則形變, 喻如故車,
法能除苦, 宜以力學。
命欲日夜盡, 及時可勤力,
世間諦非常, 莫惑墮冥中。
當學燃意燈, 自練求智慧,
離垢勿染污, 執燭觀道地。』
『老いては色が衰え、病にかかれば輝きを失い、 肌はたるみ、筋肉は縮み、死の時は目前に迫る。
老いて姿は変わり、それは古びた車のようだ。 真理(法)は苦しみを取り除くものだから、努めて学ぶべきである。
命は昼も夜も尽きようとしており、時を逃さずに励むことができる。 世の中の真実は永遠ではないのだから、迷いの闇に落ちて惑わされてはならない。
心のともしびを灯すことを学び、自らを鍛えて智慧を求めよ。 汚れを離れ、染まらずに、灯火をかざして悟りの道を観なさい。』
「於是太子,即迴車還,愍傷一切,有此太患,憂思不樂。王問其僕:『太子出遊,何故速還?』其僕答言:『道逢老人,傷念不樂。』還宮愁思,數年小差,復欲出遊。王勅國中,太子當出,禁諸臭穢,莫在道側。於是太子,駕乘出城南門。天化為病人,在于道側,身瘦腹大,軀體黃熟,咳嗽嘔𠸺,百節痛毒,九孔敗漏,不淨自沒,目不見色,耳不聞聲,呻吟呼吸,手足摸空,喚呼父母,悲戀妻子。太子問曰:『此為何等?』其僕答言:『病人也。』『何如為病?』答言:『人有四大,地、水、火、風,大有百一病,展轉相鑽,四百四病,同時俱作,此人必以極寒、極熱、極飢、極飽、極飲、極渴,將節失所,臥起無常,故致斯病。』太子嘆曰:『吾處富貴,極世所珍,飲食快口,放心自恣,婬於五欲,不能自覺,亦當有病,與彼何異。』即說偈言:
そこで太子は車を引き返し、すべての生きとし生けるものがこの大きな苦しみを抱えていることを哀れみ、憂い悲しんで楽しまれなかった。王は従者に尋ねた。「太子が出かけていったのに、なぜすぐに戻ってきたのか。」従者は答えた。「道で老人に出会い、悲しみ嘆かれて楽しまれなかったのです。」
宮中に戻っても愁い悲しみ、数年して少し気が晴れたので、再び出かけようとされた。王は国中に命じた。「太子がお出かけになる。あらゆる汚らわしいもの、不快なものを道端に置くな。」そこで太子は車に乗って城南の門から出られた。
すると天が病人に化身し、道端にいた。体は痩せ、腹は大きく、身体は黄色くただれ、咳き込み、吐き、体中の節々が激しく痛み、九つの穴は腐って漏れ、不浄が自ら流れ出ていた。目は色を見ることができず、耳は音を聞くこともできず、呻き、呼吸し、手足は虚ろに空を探り、父母を呼び、妻や子を恋い悲しんでいた。
太子は尋ねられた。「これは何者か。」従者は答えた。「病人でございます。」「どのような状態が病なのか。」答えた。「人には四大、すなわち地・水・火・風があります。それぞれに百一の病が宿り、互いに影響し合って四百四の病が同時に起こります。この人は極寒、極熱、極飢、極飽、極飲、極渇、あるいは養生を誤り、休息と活動が不規則であったために、この病にかかったのです。」
太子は嘆かれた。「私は富貴にあり、世の中で最も珍重されるものに囲まれ、飲食は口に快く、心のままに振る舞い、五欲にふけって自ら悟ることがなかった。しかし私もまた病を得ることがあるのだ。あの人と何の違いがあろうか。」そしてすぐに偈を説かれた。
「『是身為脆哉, 常俱四大中,
九孔不淨漏, 有老有病患。
生天皆無常, 人間老病憂,
觀身如雨泡, 世間何可樂。』」
「この身体はなんと脆いものか。 常に地・水・火・風の四大元素に支えられ、 九つの穴からは絶えず不浄なものが漏れ出て、 老いと病に苦しむ。
天に生まれても全ては無常であり、 人の世では老い、病、憂いが絶えない。 身体はまるではじける泡のよう。 この世に何の楽しみがあろうか。」
「於是太子,迴車還宮,思念一切有此大患。王問其僕:『太子出遊,今者何如?』其僕答言:『逢見病人,於是不樂。』數年小差,復欲出遊。王勅國中,太子當出,平治臭處,無令近道。出西城門,天作死人,扶輿出城,室家隨車,啼哭呼天,奈何捨我,永為別離。太子問曰:『此為何等?』僕言:『死人。』『何如為死?』答言:『死者盡也,精神去矣。四大欲散,魂神不安,風去息絕,火滅身冷,風先火次,魂靈去矣。身體挺直,無所復知,旬日之間,肉壞血流,膖脹爛臭,無一可取。身中有蟲,蟲還食之,筋脉爛盡,骨節解散,髑髏異處,脊脇肩臂,髀脛足指,各自異處,飛鳥走獸,競來食之。天龍鬼神,帝王人民,貧富貴賤,無免此患。』太子長嘆,而說頌曰:
そこで太子は車を都へと向けさせ、すべての存在にこの大きな苦しみがあることを思いやられた。王は従者に尋ねられた。「太子が外出されたが、今日はどのようであったか。」従者は答えた。「病人にお会いになり、そのためお心がお優れになりません。」数年後、太子の心地も少し落ち着かれたので、再び外出したいと思われた。王は国内に命じ、太子がお出かけになるので、道の汚い場所を整えさせ、近づかないようにさせた。西の城門を出られると、天が作り出したかのような死人があり、輿に乗せられて城の外へと運ばれ、家族が車に付き添い、泣き叫んで天に呼びかけた。「どうして私を置き去りにして、永遠に別れなければならないのか。」太子は尋ねられた。「これは何というものか。」従者は言った。「死人でございます。」「死とはどういうことか。」答えていうには、「死とは尽きることであり、精神が去ってしまうことでございます。四大元素は散りゆこうとし、魂は不安定になります。風が去り息が絶え、火が消え身体が冷たくなります。風が先に去り、次に火が消え、魂は去ります。身体は硬直し、何も感じることはなく、十日ほどで肉は腐り血は流れ、腫れ上がり腐って悪臭を放ち、取るに足るものは何もありません。身体の中には虫がいて、その虫がまた身体を食らいます。筋や血管は腐り尽くし、骨の節は解け離れ、頭蓋骨は別の場所に、背骨、肋骨、肩、腕、腿、脛、足の指は、それぞれ別々の場所にあります。空を飛ぶ鳥や地面を走る獣は、競ってそれらを食べに来ます。天や龍、鬼神、帝王や人民、貧しい者や富める者、身分の高い者や低い者、誰一人としてこの患いを免れる者はおりません。」太子は深く嘆息され、次の偈を唱えられた。
「『觀見老病死, 太子心長歎,
人生無常在, 吾身亦當然。
是身為死物, 精神無形法,
假令死復生, 罪福不敗亡。
終始非一世, 從癡愛久長,
自此受苦樂, 身死神不喪。
非空非海中, 非入山石間,
無有地方所, 脫止不受死。』
太子は老い、病、死を目にして、深く嘆き息をついた。 「人生は無常であり、この身もまた、いずれは同じ運命をたどる。 この身体はいつか朽ちるもの。しかし、精神は形なきもの。 たとえ死んで再び生き返ることがあっても、善悪の報いは決して滅びない。 生死は一度きりのものではなく、無明と渇愛という長い迷いから続いている。 ここから人は苦楽を受け、身体は死んでも心は失われることはない。 死から逃れられる場所は、虚空にも、大海にも、山石の間にもない。 死を免れて、そこに留まることのできる場所など、どこにもないのだ。」
「於是太子,迴車還宮,愍念眾生有老、病、死苦惱大患,憂思不食。王問其僕:『太子出遊,寧有樂乎?』即答王言:『逢見死人,遂致不樂。』數年小差,復欲遊觀,嚴駕出北城門。天復化作沙門,法服持鉢,行步安詳,目不離前。太子問曰:『此為何人?』其僕答曰:『沙門也!』『何等為沙門?』『蓋聞沙門之為道也,捨家妻子,捐棄愛欲,斷絕六情,守戒無為,得一心者,則萬邪滅矣。一心之道,謂之羅漢,羅漢者真人也。聲色不能污,榮位不能屈,難動如地,已免憂苦,存亡自在。』太子曰:『善哉!唯是為快。』即說偈言:
そこで太子は車を戻して宮殿に帰られた。老・病・死の苦しみという大きな患いを抱える衆生を哀れみ、憂い思って食事も取られなかった。 王が従者に尋ねた。「太子は出遊されたが、何か楽しいことはあったか?」 従者は王に答えた。「死人の姿にお逢いになり、そのためお気を楽しまれませんでした。」 数年後、少し快復されたので、再び遊覧したいとお望みになり、車を整えて北の城門を出られた。 天がさらに沙門に姿を変え、法衣をまとい鉢を持ち、歩く様子は安らかで落ち着き、目は前方からそらさなかった。 太子がお尋ねになった。「この方は何者か?」 従者が答えた。「沙門(しゃもん)と申します。」 「沙門とは何か?」 「お聞きするところによれば、沙門の道とは、家や妻子を捨て、愛欲を捨て去り、六根の情を断ち切り、戒めを守り、無為の境地にあって、一心を得るならば、あらゆる邪は滅びるとのことです。一心の道を羅漢(らかん)といい、羅漢とは真人(しんじん)です。声色に汚されることなく、栄誉や地位に屈することなく、大地のように動かず、すでに憂い苦しみを免れ、存在も消滅も自在であります。」 太子は言われた。「善いかな、これこそが真の楽しみである。」そして偈(げ)を説かれた。
「『痛哉有此苦, 生老病死患,
精神還入罪, 經歷諸勤苦。
今當滅諸苦, 生老病死除,
不復與愛會, 永令得滅度。』
生・老・病・死という患い。 心は迷いの中に落ち込み、 さまざまな困難を繰り返し経験する。 今こそ、あらゆる苦しみを消し去り、 生・老・病・死を超えよう。 愛着との出会いを再び持たず、 永遠の安らぎ(涅槃)に至ろう。」
「於是太子,即迴車還,齋思不食。王問其僕:『太子又出,意豈樂乎?』僕言:『行見沙門,倍更憂思,不向飲食。』王聞大怒,舉手自擊,前勅修道,復令太子輙見不祥,罪應刑戮。即召群臣,各使建議,設何方術,當令太子不出學道。有一臣言:『宜令太子監農種殖,役其意思,使不念道。』便以農器犁牛千具,僕從大小相率上田,令監課之。太子坐閻浮樹下,見耕者墾壤出蟲,天復化令牛領興壞,蟲下淋落,烏隨啄吞。又作蝦蟇,追食曲蟺,蛇從穴出,吞食蝦蟇,孔雀飛下啄吞其蛇,有鷹飛來,搏取孔雀,鵰鷲復來,搏撮食之。菩薩見此眾生品類展轉相吞,慈心愍傷,即於樹下得第一禪。日光赫奕,樹為曲枝,隨蔭其軀。
そこで太子は車を引き返させ、心を静めて食事を取らずに瞑想に没頭された。 王は従者に尋ねた。「太子がまた出かけたが、心は楽しそうだったか?」 従者は答えた。「道中で沙門(僧)をお見かけになり、さらに憂いと思いに沈まれ、食事にも向かわれません。」 王はこれを聞いて大いに怒り、手を上げて自らを打ち、「先に修行を禁じたのに、またも太子に不吉なものを見せた。罪は死刑に値する」と言った。 すぐに群臣を集め、それぞれに策を述べさせた。「どのような方法を用いれば、太子が学道に出かけずに済むだろうか。」 ある臣が言った。「太子に農耕を監督させ、その心を働かせて、道を思わせないようにするのがよいでしょう。」 そこで、農具や犁、牛千頭と、大小の従者を連れて田んぼに向かい、太子に監督を命じた。 太子は閻浮樹(えんぶじゅ)の下に座り、耕す者が土を掘り返して虫が出てくるのをご覧になった。すると天が変化を起こし、牛の首が壊れ、虫が下に落ちると、烏が追って啄み飲み込んだ。さらに蝦蟇(がま)が現れ、曲蟺(みみず)を追って食らい、蛇が穴から出て蝦蟇を呑み、孔雀が飛び下りて蛇を啄み呑み、鷹が飛来して孔雀を捕え、さらに鵰(わし)や鷲が来てそれを奪い食らった。 菩薩はこれらの衆生の種類が次々と互いに呑み合う様をご覧になり、慈しみの心で深く傷み悲しまれた。 そして、その木の下で第一禅(初めての深い瞑想状態)を得られた。 日の光は赫々と輝いていたが、木が枝を曲げて、その陰が太子の体を覆った。
「王念太子,常在宮中,未曾執苦,即問其僕:『太子何如?』對言:『今在閻浮樹下,一心禪定。』王曰:『吾令監作欲亂其思,然故禪定,在家何異?』王勅嚴駕便往迎之。遙見太子,樹枝曲蔭,神曜非常。不識下馬,為作禮時,即與俱還。未及城門,無數千人,華香奉迎,相師一切,稱壽無量。王問:『何故?』梵志答言:『明旦日出,七寶當至。』王大歡喜,必成聖王。
王は、太子が常に宮中におられ、苦しい労働を経験したことがないと思い、側近に尋ねました。「太子はどうしておられるか?」すると側近は答えました。「今、閻浮樹の下で、一心に禅定しておられます。」王は言いました。「私は作業を監督させて、その心を乱そうとしたのだが、それでもなお禅定しておられるとは。家にいる時と何が変わろうか。」王は車駕を整えるよう命じ、自ら太子を迎えに行きました。遠くから太子をご覧になると、樹の枝は曲がって陰を作り、その神々しい輝きは並々ならぬものでした。王は馬を下り、礼をする頃には、共に帰路につきました。城門に着く前に、無数の人々が花や香を捧げて迎え、相師たちは皆、寿命無量を祝いました。王が「どういうことか?」と尋ねると、梵志が答えました。「明日の朝、日が昇る時、七宝が到来するでしょう。」王は大いに喜び、必ずや聖王となるだろうと思いました。