金剛峯樓閣一切瑜伽瑜祇經卷上
金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経 巻上
唐南天竺國三藏沙門金剛智譯
金剛智訳『唐南天竺国三蔵』
序品第一
序品第一
如是我聞:
このように私は聞きました。
一時薄伽梵金剛界遍照如來,以五智所成四種法身,於本有金剛界自在大三昧耶自覺本初大菩提心普賢滿月不壞金剛光明心殿中,與自性所成眷屬,金剛手等十六大菩薩及四攝行天女使金剛內外八供養金剛天女使,各各以本誓加持,自住金剛月輪,持本三摩地幖幟,皆以微細法身祕密心地越過十地身語心金剛,各以五智光明峯杵出現五億俱胝微細金剛,遍滿虛空法界,諸地菩薩無有能見、俱不覺知,熾然光明自在威力常於三世不壞化身利樂有情無時暫息,以金剛自性光明遍照清淨不染種種業用方便加持救度有情,演金剛乘惟一金剛能斷煩惱,以此甚深祕密心地普賢自性常住法身攝諸菩薩唯此佛利盡,以金剛自性清淨所成密嚴華嚴,以諸大悲行願圓滿有情福智資糧之所成就,以五智光照常住三世無有暫息平等智身。
ある時、世尊にして金剛界遍照如来であられる方が、五智によって成就された四種の法身として、本来有する金剛界の自在大三昧耶において、自ら覚った最初の大菩提心、すなわち普賢の満月のごとき不壊の金剛光明心殿におられた。そこには、自らの本性から生じた眷属である金剛手をはじめとする十六大菩薩、そして四摂の行をなす天女の使い、金剛の内外八供養を司る金剛天女の使いたちがいた。彼らはそれぞれ、本来の誓いの力によって、自ら金剛の月輪に坐し、それぞれの三摩地を示す標識を保ちつつ、微細な法身と秘密の心地によって、十地を超えた身・語・意の金剛を具現していた。そして、各々が五智の光明の峰のごとき金剛杵を出現させ、五億のコーティ(極めて多数)の微細な金剛を生み出した。それらは虚空と法界の隅々にまで満ち渡り、地の位にある菩薩たちには見ることも叶わず、感じ取ることさえもできなかった。その燃え盛る光と自在の威力は、常に三世にわたって壊れることのない化身として、有情を利益し楽しませる働きを一瞬も休むことなく続けていた。金剛の自性光明は遍く照らし清らかで汚れがなく、様々な業用を方便として加持し、有情を救済するのである。そして、金剛乗(金剛の教え)を説き示す。ただ一つの金剛のみが煩悩を断ち切ることができる。この甚深にして秘密の心地である普賢の自性、常住の法身は、諸菩薩を摂受し、この仏の功徳のみが尽きることはない。金剛の自性清浄によって成就された密厳華厳の世界は、諸々の大悲の行願によって有情の福智の資糧を円満にし、成就されたものである。五智の光は常住し、三世にわたって一瞬の休みもなく、平等なる智慧の身として輝いている。
爾時普賢金剛手等十六大菩薩,從定而起,遍照虛空金剛自性成辦清淨光明,同聲以偈讚曰:
その時、普賢菩薩や金剛手菩薩をはじめとする十六人の大菩薩たちは、瞑想から立ち上がり、虚空を遍く照らす金剛のように自らの本性を成就し、清らかな光を放ちながら、声を揃えて次の詩(偈)で讃えました。
「大日金剛峯, 微細住自然,
光明常遍照, 不壞清淨業。」
大日如来の金剛峯(智慧の頂点)に 微細にして自然に留まり、 光は常に全てを照らし、 清らかな行いは決して壊れることがない。
說此讚已,時金剛手菩薩以右手五峯金剛擲於虛空,寂然一體還住手中,說此金剛曰:
この賛を説き終えると、その時、金剛手菩薩は右手の五峯の金剛杵を虚空に投げ上げた。それは静かに一つの体となり、再び手の中に戻った。そして、この金剛の陀羅尼を説いた。
「吽引」
「オン・ウン・ソワカ」
時金剛王菩薩以所持鉤擲於虛空,寂然一體還住手中,說此摩尼曰:
時に金剛王菩薩は、手に持っていた鈎を虚空に投げ上げると、静かに一つの塊となって再び手の中に戻り、この摩尼の呪を説いた。
「怛𠸪二合」
「タターガタ」
時金剛染菩薩以金剛白蓮擲於虛空,寂然一體還住手中,說此蓮花曰:
時に金剛染菩薩は、金剛白蓮を虚空に掲げ、静かに一つとなってその手に戻り、この蓮華の言葉を語った。
「紇哩以三合」
「ガルベー」
時金剛稱菩薩以金剛箜篌擲於虛空,寂然一體還住手中,說此羯磨曰:
その時、金剛称菩薩が金剛の琴を虚空に投げ上げると、静かに一つとなり再び手の中に還った。そして、この修行の言葉を説いた。
「噁」
「ああ、悪しきことよ」
時四大菩薩同聲告金剛界如來言:「我今現此神通,為動一切有情本性,開顯鉤召彼愚童,令染愛諸佛妙法,成熟本有法身故。」時虛空藏菩薩復以手中寶瓶擲於虛空,寂然一體還來手中,說此金剛藏曰:
時に四大菩薩が声を揃えて金剛界如来に申し上げた。「私たちが今この神通力を現すのは、あらゆる有情の本性を動かし、その愚かな子供たちを鉤のように呼び寄せて開示し、彼らに諸仏の妙法を慕い愛させるためです。そして、もともと備わっている法身を成熟させるためなのです。」
時に虚空蔵菩薩が再び手に持った宝瓶を虚空に投げ上げると、それは静かに一体となって手に戻ってきた。そしてこの金剛蔵の言葉を説いた。
「惹」
「サーリプトラよ」
時金光菩薩以手中日輪擲於虛空,寂然一體還來手中,說此金剛光曰:
光り輝く菩薩が、手に持った太陽の輪を虚空に投げ上げました。すると、それは静かに一つの塊となって、再び手の中に戻ってきました。この時、菩薩は次のような「金剛の光」の言葉を説かれました。
「吽引」
「オン・ウン・ソワカ」
時虛空旗菩薩以手中幢旗擲於虛空,寂然一體還來手中,說此金剛旗曰:
虚空の旗の菩薩が、手にしていた幢旗を虚空に投げ上げました。すると、それは静かに一つとなって再び手の中に戻ってきました。そして、この金剛の旗の陀羅尼を説きました。
「鑁」
「ビルシャナ仏」
時虛空笑菩薩以手中金剛旛擲於虛空,寂然一體還來手中,說此金剛旛曰:
虚空に笑う菩薩が、手に持っていた金剛の旗を虚空に投げ上げると、それは静かに一つとなって再び手の中に戻ってきました。そして、この金剛の旗について説きました。
「鵠」
「鵠」
時四大菩薩同聲告金剛界如來言:「我今現此神通,為欲鉤召一切有情令入法界,以索引至金剛場,以鎖堅諸藏誐,以鈴適悅彼性,令快樂故。」時觀自在菩薩以手中鏡擲於虛空,寂然一體還住手中,說此金剛智曰:
時に、四大菩薩が声を揃えて金剛界如来に申し上げました。「私たちが今、この神通力を示すのは、あらゆる有情を召し寄せて法界へ導き、金剛の場に引き寄せるためです。綱で彼らを導き、鍵でその本源を堅固にし、鈴でその心をなごませ、楽しみをもたらすためです。」
その時、観自在菩薩は手に持っていた鏡を虚空に投げ上げると、それは静かにひとつとなって再び手に戻り、この金剛智の言葉を説かれました。
「阿上聲」
「阿(上声)」
時妙吉祥菩薩以手中鉢惹夾擲於虛空,寂然一體還住手中,說摩尼行曰:
そのとき、妙吉祥菩薩は手に持った鉢を虚空に投げ上げると、静かに一つとなって再び手の中に戻りました。そして、摩尼の行い(修行の道)についてこう説かれました。
「阿引」
「あー、阿(あ)よ」
時轉法輪菩薩以手中輪擲於虛空,寂然一體還住手中,說蓮花定曰:
時に法輪を転ずる菩薩は、手にした輪を虚空に投げあげました。するとそれは静かに一つとなり、再び手の中に還ってきました。そして、蓮華の定(じょう)についてこう説かれました。
「暗引」
「闇に導くもの」
時金剛言菩薩以手中螺擲於虛空,寂然一體還住手中,說此羯磨曰:
さて、金剛手菩薩は手に持った螺貝を虚空に投げ上げました。すると、螺貝は静かに一つとなり、再び手の中に戻りました。その時、このような真言(羯磨)を唱えました。
「噁引」
「悪を引き寄せる」
時四大菩薩同聲告金剛界如來言:「我今現此神通,為欲開一切有情本有不生性故,令修行萬行滿足故,令成就大菩提故,入不動如如智故。」
時に四大菩薩が声をそろえて金剛界如来に申し上げた。「私たちが今この神通力を現すのは、すべての生きとし生けるものに本来備わっている不生の本性を開き示すためであり、修行によるあらゆる行いを完成させるためであり、大いなる悟りを成就するためであり、動くことのない真実の智慧に入るためなのです。」
時金剛業菩薩以手中綠寶擲於虛空,寂然一體還住手中,說此瑜伽曰:
汝が手に持つ緑の宝を虚空に投げ上げれば、静かに一つとなって、再び手の中に還る。この瑜伽を説く:
「伊去聲引」
「イ(去声・引声)」
時金剛護菩薩以手中傘蓋擲於虛空,寂然一體還住手中,說此瑜伽曰:
金剛護菩薩は、手に持っていた傘蓋を虚空に投げ上げると、静かに一体となって再び手の中に戻った。そして、この瑜伽の言葉を説いた。
「伊引」
「エイイン(影響)」
時金剛蓋菩薩以手中羯磨首擲於虛空,寂然一體還住手中,說此瑜伽曰:
金剛蓋菩薩が、手に持っていた羯磨の宝冠を虚空に投げ上げると、それは静かに一つとなって、再び手の中に戻りました。その時、菩薩はこのヨーガの言葉を説きました。
「污」
「けがれ」
時金剛持菩薩以手中月擲於虛空,寂然一體還住手中,說此瑜伽曰:
その時、金剛持菩薩は手の中の月を虚空に投げ上げ、静かに一体となって再び手の中に戻り、次の瑜伽を説いた。
「奧上聲」
「奥(奥の上声)」
時四大菩薩同聲告金剛界如來言:「我今現此神通,為欲出生一切法,令一切有情隨其受用,為欲成就如來三身,為欲成就遍周法界一切有情身,為欲於生死中得自在之樂故。」
この時、四大菩薩が声を揃えて金剛界如来に申し上げました。 「私たちが今この神通力を現したのは、あらゆる法を生み出し、すべての生きとし生けるものがそれを受けて自在に用いることができるようにするためです。 また、如来の三つの身(三身)を成就させるため、法界全体に及ぶすべての生きとし生けるものの身を成就させるため、そして生死の輪廻の中で自在の楽しみを得るためでございます。」
時四方如來為欲現證一切如來本有金剛(性故),同聲說四種一字心密言曰:
さて、四方の如来たちは、すべての如来に本来備わる金剛の性質をまさに現に示すために、声を揃えて四つの一文字の心の秘密の言葉を唱えた。
「吽引」
「オン・ウン・ソワカ」
時四波羅蜜菩薩,為欲利益一切有情,修行大悲行願故,同聲說四種一字心方便瑜伽曰:
時に、四波羅蜜の菩薩たちは、一切の有情を利益せんと欲し、大いなる悲しみの行いと願いを修行するがゆえに、声をそろえて、四種の一字心の方便瑜伽を説いた。
「唵」
「オン」
時內修供養天女使者,為欲顯如來內神通遊戲喜鬘歌舞等供養,同聲說此四種一字金剛心:
時、内に修する供養の天女の使いは、如来の内なる神通の遊戯、歓喜の鬘や歌舞などの供養を顕わさんとして、声を揃えてこの四種の一字金剛心を説いた。
「鵠」
「観音さま」
時外供養天女使者,為欲令一切有情諸行速得圓滿故,說此四種一字心:
時に、外なる供養を司る天女たちの使いは、すべての生きとし生けるものの行いが速やかに円満することを願って、この四つの一字心の真言を説いた。
「吽引」
「オン・ウン・ソワカ」
時四門使者天女,為欲攝入一切有情至法界宮故,同聲說此四種一字心:
四つの門番である天女たちは、すべての生きとし生けるものを法界の宮殿に導き入れるために、声をそろえてこの四つの一字心を唱えた。
「吽引」
「オン ウーン イン」
時金剛界如來復說窣覩波法界普賢一字心密言曰:
時に金剛界如来は、再びストゥーパ(仏塔)の法界を表す普賢の一字心の密呪を説かれました。
「鑁」
「ビルシャナ」
爾時金剛界如來復告金剛手言:「若有善男子善女人,受持此深密瑜伽金剛一切如來大勝金剛心瑜伽成就三十七尊自覺聖智者,應用金剛界中三十七羯磨印成就,常當持普賢菩薩一字心明,與此出入息隨氣相應,身語意金剛智當速獲之,速證普賢菩薩之身,此名普賢菩薩金剛薩埵三昧耶三十七智深密相應,大阿闍梨應作此法。若諸阿闍梨曾入金剛界大灌頂,及受金剛界阿闍梨位,應修此法,常以一字齊運三業,當獲得大普賢薩埵之身。」爾時金剛界普賢如來,以偈讚曰:
そのとき、金剛界如来は、ふたたび金剛手に告げられました。「もし善男子・善女人で、この深密なる瑜伽金剛・一切如来の大勝金剛心瑜伽の成就である三十七尊の自覚聖智を受持する者は、金剛界の中の三十七羯磨印の成就を用いるべきです。常に普賢菩薩の一字心明を持し、この出入の息を気の相に随わせて相応させれば、身・語・意の金剛智を速やかに獲得し、速やかに普賢菩薩の身を証するでしょう。これを普賢菩薩金剛薩埵三昧耶三十七智深密相応と名づけます。大阿闍梨はこの法を行うべきです。もし諸の阿闍梨がかつて金剛界の大灌頂に入り、また金剛界の阿闍梨の位を受けたならば、この法を修めるべきです。常に一字をもって三業を斉しく運べば、大普賢薩埵の身を得るでしょう。」
そのとき、金剛界普賢如来は、偈をもって讃えて言われました。
「大有金剛性, 光明遍照王,
清淨妙蓮染, 無為而作業,
金剛鉤召起, 熾盛威三界,
決除無智闇, 被金剛甲鎧,
染欲諸有情, 安樂行餘益,
隨機轉法輪, 盡除諸蓋障,
稱讚令歡喜, 戲笑或悅意,
離言我所能, 三業持常寂。
持明阿闍梨, 思惟十六義,
誦一字心密, 三十七圓滿,
常持此讚王, 結大羯磨印。
若作漫荼羅, 及畫瑜伽像,
結窣覩波印, 誦明如四處。
普賢三昧耶, 屈進力如鉤,
檀慧禪智合, 是名彼大印。
次誦一字明, 結大羯磨印,
時時不間斷, 三十七圓滿。」
「大いなる金剛の性質を持ち、光明が遍く世界を照らす王、 清らかで美しい蓮華に染まり、何もせずして働きをなす。 金剛の鉤が呼び起こし、盛んに輝いて三界を威圧し、 愚かさの闇を決して除き、金剛の鎧を身にまとう。 欲に染まったあらゆる生きとし生けるものに、安楽とその他の利益をもたらし、 機に応じて法の輪を転じ、すべてのさまたげを尽くして除き、 称賛して喜ばせ、冗談や笑いで心を楽しませ、 言葉や我執を離れ、身・口・意の三業をもって常に静けさを保つ。 真言を保つ阿闍梨は、十六の意味を思惟し、 一文字の心の秘密を唱えて、三十七の円満を得る。 常にこの賛歌の王を保ち、大羯磨の印を結ぶ。 もし曼荼羅を作り、あるいは瑜伽の像を描くなら、 卒塔婆(ストゥーパ)の印を結び、四つの場所で真言を唱える。 普賢の三昧耶、進(人差し指)と力(中指)を曲げて鉤のようにし、 檀(薬指)と慧(小指)、禅(親指)と智(中指)を合わせる、これを大いなる印と名付ける。 次に一文字の真言を唱え、大羯磨の印を結び、 時々途切れることなく行えば、三十七の円満が成就する。」